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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 302

直後、目の前の空間を室内灯の淡い魔法照明を歪めて半透明の『何か』が、視認できるギリギリの豪速で薙いでいった。
ちょうど、自分の頭があった部分である。

「っぅ、はぁ……」

悲鳴を、口内を満たす気持ちの悪い唾液と一緒に飲み込み、そして、背後へと目をやったヘルシオ。
そこには自分の外套の襟を両手で掴み、なかなかの強面で睨んでくるフローラの顔があった。

「済みません。ありがとう、フローラ」

「…………んもぅ。本当に、済んでないよ。死んじゃうとこだったじゃない」

膨れっ面を納めたフローラが、それでも唇を尖らせて言ってきた。
そのいつもと変わりない恋人の反応に、ヘルシオもなんとか平常を取り戻すことができた。
そうである。たかだか、自分ごときが得意とする程度の魔法をひとつ、防いだだけではないか。
師ノークは千年竜を封印するためにその攻撃圏内で三日も詠唱を続けたという。
兄弟子デルマーノは人とは次元の違う魔導生物である真血種の吸血鬼に相対し、限りない劣勢をひっくり返している。
つまり、こういうのが奇蹟であり、凡夫では到底達成し得ない事象なのだ。
けれども、目の前の男と自分の実力差はそういった類のモノではない。
数年ばかり早く生まれたアドバンテージでしかないのである。
そんな差など……

「まったく!突っ走んないでよ、デルマーノ君じゃないんだからさ」

と、右肩を勢いよく叩いてきたフローラ。

「そうだ。己も付き合おう。なにせ、ウェンディ皇太子殿下だ。恰好の獲物だな、作戦上も、己自身にとっても……」

と、左肩をフローラよりはマシな力で叩いてきたエドゥアール。
無表情で何を考えているかわからない藪睨みの相貌であるが、その背後に倒れ伏すウェンディ兵――皇太子の親衛隊を一瞥、ヘルシオの胸に芽生えたのはこの上ない心強さだった。

「わ、私たちもいますしっ!ヘルシオ副長殿っ!」

さらに手を上げてきたのは近衛騎士の新人たち。
息を荒げながらも相手取った親衛隊の騎士を二人倒していた。
一抹の頼もしさを覚えなくもない。

「ふっ……」

ヘルシオは自身の肩の力が抜けていくのがわかった。
魔導師であり王子でもあるという自分は捨てた略歴の敵が現れたせいか、そもそも、これほどの重要な任務を己の責任で行うことになってしまったせいか、はたまた他の理由か――どうやら気を張りすぎていたらしい。
口角を歪めたヘルシオはアルザックへと正面から構えた。

「皇太子アルザック。貴公には私たちが無事に帰国するための人質になってもらいます」

「ほう?」

巨大な透かし窓を背後にアルザックは鼻で笑ってきた。
自分がこの場において最大の戦闘力を有しているという自信からくるものだ。
さらにいえば、その弱者どもを退けてすぐ後ろにある透かし窓の下の扉から外に出れば城の裏手なのである。そこまで到達できれば追っ手から逃れ、クレディア軍のいる安全圏――もし、本当にクレディアとウェンディで対等な交渉が行えていたらの話しだが――へは遮る者はいない。
そんな展望も抱いているのだ。

「……どうやら、私たちを過小評価してらっしゃるようだ」

「ふんっ。私は真っ当だと思うがね、シュナイツの若き副隊長殿?」

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