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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 303

「ならば、そう思っているといいでしょう。その傲慢こそがその身と国を滅ぼすのですから」

「っ……知ったようなことを」

アルザックの両頬に朱が差した。
美丈夫は激昂しても未だ華麗を微塵も失わせることはなかったが、けれど、ヘルシオはこの皇太子が自身の経歴を把握できていないことは察した。
デルマーノやノークが経歴をでっち上げてくれたものの、真の意味で隠蔽できたとはヘルシオも思っていない。
ただ、証拠がなく、言い逃れのために作られた事実が用意されただけなのである。
当然、クレディアの上の方は真実を掴んでいるはずだ、糾弾してこないだけで。
そして、他国を侵犯するなどという大規模軍事の現場指揮官がそれら敵方の主戦力の情報を把握していないなどということもありえないだろう。
つまり、この目前の男かまたはその父王と取引したその指揮官とやらが故意に情報を与えなかった――ということだ。
そう。その程度の信頼関係でしかないのだ。

「……ぁ」

ヘルシオは小さく嘆息した。
ということは、クレディアが勝利を収め、カルタラ同盟を解体した後にこの土地に住まう者達の運命は悲惨なことになってしまうではないか。
造反国を許す同盟国などなく、殖民地の民まで真っ当な支配を行う者も希有なことだろう。
王が、己らの私利私欲を満たすために暴走し、国土と民を脅かす。

「それは……王道ではない」

「なに?」

声こそ荒げなかなかったものの、思わず、ヘルシオの口を突いて出たのはそんな台詞だった。
美麗な青き魔導師が怪訝に眉をひそめてきた。

「私は、貴公を赦すことができそうにない、と言ったのですよ。愚かな王子」

「愚かな、だと?貴様、誰にモノを言っているかわかっているのか?」

「勿論。私と酷似し、けれど、全くの別の方向へ走り出した貴方以外に私がコレほどの憤りを覚えるわけがないではないですか」

「あっ、いまのはデルマーノ君っぽい」

フローラの調子のよい茶々入れにヘルシオは瞬間、柔らかな視線を向けてやった。
彼女は近衛局の支給する特級長剣を目の高さで構え直していた。
そして、やはり棘のない眼差しで頷いてきてくれる。

「……まあ、私の憤りも貴方の憤懣も超越した地点でものごとが進行しているというのは、お分かりですね」

「…………」

アルザックの沈黙を肯定と受け取ったヘルシオは続けた。

「ならば、互いにこれからの選択に迷いは起きません」

右腰に吊した長剣を引き抜き、右手では魔導媒体である短杖の存在を確認した。

「それに私個人としての感情も否定的ではありませんし」

無理矢理に生み出した余裕の笑みをアルザックへ向け、左半身が前になるように構えた。

「そもそも……この後、なにが起きようとも自業自得ではありませんか、アルザック王子」

「ふっ」と小さく吹き出したエドゥアールの呼気が聞こえてきた。
同時にデルマーノのモノとも類似する臨戦態勢に移った気配をも感じる。

「…………この、下賤な、無知共め」

アルザックが唇を震わせて、まるで宝石がなにか貴重で取り扱いに細心の注意を払わなければならないモノかのように単語一つひとつを呟いた。

「はい?」

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