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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 297


ウォオオオォォッ!

「むっ、う……」

そのすぐ上、ちょうど己の上体があった辺りを圧倒的な存在感が高速で走り過ぎていった。
空腹の野獣を思わせる風切り音に、一瞬、違う予想を抱いてしまったが、間違いない――デルマーノの攻撃である。
屈んだまま、そのモノが通り過ぎていった先へと目を走らせると、そこには、先までは影も形もなかった獣道が出来上がっていた。
いいや、これも違う。
その径をよく観察すれば、鋭利な断面を晒す丸太の密集地でしかなかった。
つまり、もし、自分が回避に間に合わなかったら二つになっていたのは自身だったということか。

戦慄にひきつるオスロー。
だが、惚けている暇などあるわけがなかった。

「――イヒッ!」

体勢を立て直す暇もなく、不気味な笑い声と共に強烈な殺意が全身に降り注ぐのを感じた。
半ば無意識のことだろう、これまでの戦闘経験を総動員させたオスローは視線を向けるよりも速く、槍を立てて防御の姿勢に移った。
そんな槍騎士を目にデルマーノは驚嘆を覚える。敵を前にする彼にしては珍しいことだったが、それほどのことはあった。
けれども、ヤることはかわらない。

「ぅらあっ!」

「ぐっ……」

デルマーノは不安定な雪面へと爪先を埋め、膝を蹴り、腰から上体、上体から右腕の先――戦闘槍の先へと全力を流した。
オスローは槍の柄で直撃こそ免れたが、威力を殺すことまでには至れず、衝撃が獲物から伝播してきた。
それも、怪力を有する魔族の一撃である。

「ぬあぁっ」

雪煙を舞い上げ、オスローは吹き飛ばされた。

「副長っ!」

「――他人の心配たぁ、余裕じゃねぇかよ」

「っ……蒼き精霊よ!」

二度ほどバウンドして、ようやく動きを止めたオスローへとロージーが悲鳴を上げた。
だが、デルマーノはそんな悲嘆に聞き入ってやるほど素人でも優しくもない。
それはロージー自身も既知だったのだろう、すぐさま、細長い短杖をすでに駆け出している敵へ向けた。
紅葉色の閃光に導かれ、不可視の突風が放たれたのが、同じ魔導師――氷の使い手であるデルマーノには分かった。
複数の系統を式に組み込み、さらにその呪文を最簡略させるとはなかなかの優等生である。
しかしだ、

「はっ……こんなもん」

デルマーノは揶揄するように口端を歪ませると、少女魔導師が放った魔法と同じ『冷風』を発現させた。
しかも、式へさらに切り裂く氷の飛礫の召喚も織り込み、にも関わらずロージーが発動させたのを目にした後でも優に間に合うほどの簡略化させた『冷風』である。
同型の魔術が衝突した際、その優劣を決定しせめるのは――

「イヒッ」

術者の魔力である。
で、ある以上、この大陸でデルマーノに純魔力で対抗できる人間など、数えるほどだ。

「ぃ……」

僅かなせめぎ合いの後、デルマーノの放った『冷風』がロージーのソレを飲み込み、けれど、その侵攻力を衰えさせることもなく少女魔導師へと襲いかかった。
か弱い小さな悲鳴、それと耳をつんざくほどの烈風の残響――。

「…………」

雪林に、ひさかた振りの静寂が戻ってきた。
周囲を一瞥し、「ふん……」と鼻を鳴らしたデルマーノがこす辛い手を使われ、逃してしまった獲物を追おうと背を向けたその時だった。

「……っ!」

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