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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 292

王都からほど近い仄暗い樹木群――その薄闇の中でデルマーノは快笑した。
周囲をクレディア軍の正規採用色である漆黒の法衣や鎧に身を包んだ兵たちが数重にも囲んでいるのだが、当のデルマーノからは危機感は全くと感じられない。
それもそうだろう。

「っの、化け物めっ!」

最もデルマーノ側に寄っていた魔導師が、舌打ちまじりに罵った。
彼の視線は、デルマーノの足元へと向けられている。
そして、そこには既にかの敵魔導師の手にかかって絶命した輩が幾体も転がっているのだから、このクレディアの魔術師兵の苛立ちもいたしかなかろう。
しかも、ソレさえも被害のほんの一部なのだからなおさらである。
「イヒッ……そう思うんならよ、道を空けたらどうだ?俺もよ、これ以上の血を見るのは堪らないからなあ?ヒヒッ」

「っ……」

心にもないことを平然と発し、実に好戦的な笑みを浮かべるデルマーノ。
周囲の兵たちが一斉に力んだのが見てとれた。
当然ではあるが、やはり、戦闘は不可避であるようだ。
だが、これでいい。
少なくとも、自分は有象無象には負けはしない。
そして、自分で言うのもなんなんだが、カルタラ同盟でも指折りの戦闘系魔術師であるこの『邪慳の』デルマーノに背を取られた状態で進軍を開始するほど、クレディア軍の将軍共も阿呆ではないはすだ。
つまり、自分がここで戦っている限り、クレディアは大規模な攻勢には出ない。その間にウェンディの中を一先ず、片付ければいい。
それは、アリア達に任せておけば問題はないだろう。
アリアやシャーロット、エーデルはもちろん、これまでも、そしてこれからも決して口には出すことはないだろうがヘルシオの魔術師としての能力に不安などはないのだ。
この血みどろも後少しの辛抱である。

そう、デルマーノは自身を鼓舞した。

しかし、故郷の空気を胸に含ませたせいだろうか、それは彼らしくもない楽観だったと、その時は気づくよしもなかった。

「っ!」

氷柱を中へ六本召喚し、それぞれを周囲の敵兵へと放った瞬間である、デルマーノのうなじに冷たい痺れが走った。
反射に任せ、雪に足を取られつつも二歩ほど後退する。
直後、先ほどまで自分の経っていた場所へと漆黒の火柱が上がった。

「っち」

頬をその熱気に炙られ、舌打ちをするデルマーノ。
もし、自身の魔術攻撃の着弾を確認していたら回避に間に合わなかったタイミングであった。
いや、それを見越した奇襲であったのだろう。

「――いまのを完全回避するのかっ!」

デルマーノの耳を、この殺伐とした戦場にそぐわない嬉々とした弾む男の観声が打った。

「あ?」

デルマーノが苛立ち眉を潜めてその空気を読めないにもほどのある不躾な声の方へと目を向けると、そこには数人の男女が立っていた。
大柄な騎士然とした三十前後の男と妙に凝った意匠の軽鎧小柄な少年、そして魔導師なのだろう、紅と群青色の法衣を纏った男女である。
その背後には黒衣のクレディア軍騎士、魔導兵達がそれぞれ十人、従っていたが、越えてきた丘の数を数えるのに小石を数えるような手間をデルマーノは好まないのだ。

「いやいや、見事だなあっ!『邪慳の』!」

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