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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 291

肋骨の隙間、首筋の頸動脈部、脊椎の根元、左鎖骨の中点――癒しようもない致命傷が、各々に庇った様子もなく刻まれている。
ただ、シャーロットの感嘆は殺害者の小刀かナイフかは知らないが、その腕自体ではない。
シャーロットだってカルタラ同盟盟主の最強騎士団――近衛局に所属してそれなりに日は経っていた。
この程度の腕前ならば、ゴロゴロいる。
違うのだ。
一撃必殺の殺人術ではなく、凄いのはその前。
十数名へを、反撃どころか防御すらさせない機動能力である。
体術のみでないのは確かだ。魔術の恩恵があったのだろう。
風か闇の系統による隠密、雷や光、やはり風の系統による高速移動を使わない限りは多人数を相手にして、この殺人芸当はありえない。

「ふぅん……面白いねえ、んふふっ。これがお兄ちゃんの敵か――」

シャーロットはほくそ笑んだ。
嗜虐的な笑みである。
自分はマスターであり、魂の寄りどころと呼んでも過言ではないデルマーノへ牙を剥くもの――ソレこそが自分の戦う敵なのだ。
自分が、唯一、デルマーノの『一番』になれることが戦闘であると、シャーロットは自負していた。
家事も、女としても劣っているが、戦うだけならば誰にも負けない。
だから――
「あはっ」

シャーロットは天を仰ぎ見、そして、笑った。

「あはははっ……〜っと」

すぅぅ、と息を胸一杯に溜め、一息に吐き出すと大通りの先に聳えるウェンディ王城を双眸に収めた。
針のように目を細める。
けれども、口元の笑みは消えることはなかった。

「あそこ、かあ。んふふっ。み・つ・け・たっ」

明確な敵を――。
自分の邪魔をする者という意味ではなく、純粋に、使命的に倒さなければならない敵。
それは実父以来のことだ。

自分は魔族。自分は吸血鬼。

「で、お兄ちゃんのナイトでもある――と」

戦闘に特化し、そして好戦的な種族だからこその単純明快な思考であった。
敵がいる。そして、その居場所も大体はわかっている。
ならば、次の行動なんて考えるまでもないことではないか。

「ア〜ル〜ゴッ♪」

シャーロットは大通りのど真ん中に陣取る邪竜の巨体に目を這わす。
退屈だったのか、鋼のように硬い鱗をジャキジャキと鳴らしてよくわからない音響を奏でていたアルゴは「ゴウ……」と、鼻息で返事してきた。
爬虫類特有の、生臭いって訳ではないが、どこか熱を持った吐息がシャーロットの髪をなでてくる。
乱れた頭髪を指で梳きつつ、シャーロットは続けた。

「あのさ、どうやら決戦場はあのお城の中みたいなんだ」

「グルゥ」

すると、アルゴは頭を下げ、背に乗せた鞍へ道を空けてくれた。
けれども、シャーロットは首を左右に振る。

「だめだよぅ。アルゴじゃ目立ち過ぎだって。だからさ、お兄ちゃんからの命令があるまでアルゴはお城の上空で待ってって」

「ガゥ?」

「だって、ホラ。お兄ちゃんの十八番――空中魔法陣を張るにしても、制空権の確保は必須じゃんかさ。ね?」



「…………」

アルゴはその成竜の賢い頭でシャーロットの言葉や現在の状況、主人であるデルマーノにとってなにが利になるかを計ったのだろう、しばしの沈黙の後に、

「ゴゥウ」

と首肯するとシャーロットの頬を一舐め、飛翔した。
頬についた邪竜の唾液が、その力強い羽ばたきで起きた突風で急激に冷やされる心地よさに目を細めつつ、真血種である吸血鬼の少女は指の魔力媒体――ルビーの指輪へと意識を集中させた。
直後、目前の空間が歪み、巨大な戦斧が召喚される。
そのなめした鰐の革を巻いた柄を右手で掴むとシャーロットは一息で引き抜いた。
そして、その十数貫はする超重武器を課に担ぐ。

「いってくるね、アルゴ」

すでに豆粒大になった邪竜のシルエットを見上げたシャーロットは次に目的地である城へと視線を映した。

「…………んふ、はははっ」

小さく笑う。
アソコには戦場が待っているのだ。
シャーロットは犬歯をむき出しに笑みを浮かべ、そして、大通りを駆け出した。




「ヒッ……イヒャヒャヒャ……」

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