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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 285

「実は……」

事情を一から説明しようとして、アリアはそこで口を噤んだ。
何があったか?
そんなこと、渦中も渦中――おそらく、一騒動では済まないような激戦の末に逃げおおせたこの少女姫がわざわざ訊ねるとは、愚問ここに極まりである。
そして、エリーゼは確かにお転婆で勝ち気な所が玉に瑕ではあるが、決して愚者ではないのだ。
つまり、彼女が解説を求めている部分とは――

「現在、この王都のすぐ先ではクレディア軍が展開しています。ウェンディが手引きしたのです。ですが、デルマーノとシャーロットのお陰でクレディア軍は足踏みしている状態です」

「デルマーノっ?……くっ。そう」

エリーゼは舌打ちした。
きっと、デルマーノに助けられるという状況が、例えどのような場合だったとしても愉快な内容ではないのだろう。
または、この国と彼の関係をそこはかとなく察しており――入城時にあれだけおおっぴらに国の重要人物がデルマーノを拒絶したのだから、察せないはずまないが――、ソレを含めて、愉快でないのかもしれない。
優しい女性なのだ、我が主君は。
猫目を細くさせるエリーゼへとアリアは感謝と尊敬の眼差しを送った。

「……ふんっ、なら、大丈夫なんでしょうね」

「えっ」

「だから、あの男が動いてるんだから、さ」

詰まらなさそうに、悔しそうに細い眉をしかめて言ったエリーゼ。
アリアはそんな主君を、目をパチパチとさせて凝視してしまう。
それはアリアだけではない。
見ると、エリーゼの背後では彼女のデルマーノ嫌いを知っている隊長エーデルや副隊長ギルデスタンも主へと懐疑的な、呆けた眼差しを送っていた。
すぐにエリーゼも三人の臣下の眼差しに気づいた。

「な……なによぉ?」

「いえ……姫が、デルマーノを正等に評価しているとは、ちょっと、意外でして……」

「ア、アリアっ?」

エリーゼが頓狂な声を上げてきた。
けれども、アリアが何かを言う前に傍に立ったエーデルが口を開いてしまう。

「大人になられましたね、姫。本当に……」

隊長の声に涙ぐんだ気配を覚えたのは、決してアリアの気のせいではあるまい。

だって、自分以上に――いや、この世で一番、エリーゼのお転婆っぷりに悩まされ、右往左往とさせらていたのがなにを隠そう、この親衛隊長エーデル・ワイスなのだから。
彼女と同じほどエリーゼの護衛の任を受け持って長いギルデスタンも鼻を紅くさせているのをアリアは視界の端でしっかりと確認した。

「ぅう……子ども扱いして……」

不満そうに唇を尖らせるエリーゼ。
けれども、三者計六つの生温かい視線に晒されることにいよいよ耐えられなくなったのか、グッ、と『何か』を飲み下すフリをすると、続けた。

「――で?状況も把握し終えたし、これからどうするか、話し合いましょ?」

もっともな意見だ。誰も反論するものはいない。
……そもそも、わずかに頬を桃色に染め、完全に照れている主君をさらにからかえばどうなるかなど、付き合いの長い三人の臣下にはわかりきっているのだ。

「まず、第一に――」

一転、真面目な顔つきになったエーデルが主の言葉を受け継いだ。

「味方と合流しましょう。いままでは城内の、しかも、なるたけ穏便に動いていたので無事でしたが……」

「ええ。ちょっと、心元ないものね――エ、エーデルたちがなんとかって意味じゃなくてっ、ただ、まさかクレディア軍まで動いてるとは思ってなかったってだけで」

「御意に、姫」

腕組み、ふいっと顔をそむけて失言を恥じるエリーゼへ、その親衛隊長は穏やかな微笑を浮かべて首肯した。

「じゃ、決定ね?まず、脱出と合流。その後は――」

エリーゼが、いつもの勝ち気な、臣下たちを密かにハラハラとさせるなにかを含んだような笑みを小さな顔に作った。

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