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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 281


「ふっ……」

アリアは、さらに自身へと追撃してくる針の先のように微細で、しかし、確固な敵意へと集中する。
この時ばかりは最愛の男のことも脳のはしっこに置いておくしかない。

気合いの込めた呼気と共に抜剣したアリア。

ゴウッ、と風が回廊を舐め、その等間隔で設えられた石柱を破壊した。
愛剣に込められた風の魔法を開放したのである。
デルマーノに調整を受けた業物は、すでにそれの付与魔法だけでも十二分な武器となっていた。

石柱が、割れた。

どう見たところで、所詮は装飾用のモノだったし、建物に影響などありはしないだろう。
そしてくぐもった悲鳴が聞こえてきた。
警戒を十分に近付いてみると、そこには、藍色の上衣の男が痛みに声を殺している。
おそらく、特殊な訓練を受けた兵なのだろう。
通常の騎士や衛兵とは違う雰囲気をアリアは感じたのだった。

「…………」

こちらを睨んでくる男。
面長の、どこか陰気臭い顔立ちに、いまは敵意の視線を放射する吊り目がちの双眸が印象的だった。

「…………ウェンディの者か?それとも、クレディア?」

アリアは風の魔力を秘めた長剣の、その鋭利な両刃の片方を男の首筋へとあてがい、脅してみた。
もちろん、返事などは期待してないが、まぁ、一応――だ。
俗にいう、最後の機会というやつである。
これでも騎士だし、存外、慈悲深い女なのだ、自分は。

「…………」

けれども――予想通り――、男は一言も、それこそ悲鳴も命乞いもしてこなかった。
敵方の兵ながら、天晴れである。

だからこそ、同じ武人として敬意を込め……。



「――ふぅ」

アリアは、嘆息した。
はっきり云おう。
自分は、敵の命を奪うことに躊躇も罪悪感も覚えない。
なぜなら、アリア・アルマニエは騎士だからだ。
近衛騎士なのである。

……けれども、決して殺人快楽者では断じてない。

手には未だに命を奪った、あの嫌な感じがこびりついていた。

アリアは思う。

自分は騎士だ。
それは、家が武家だったわけだし、自分が兄弟姉妹の中で一番剣才があったから、自分が騎士の道を辿ることになったのは当然の成り行きだとは思う。
――けれど、デルマーノもエドやマルスランも、国は違えどもローザたちも、彼ら奴隷闘士たちは強制されたのだ。
命を奪うことを、いま自分を苛んでくるこの罪悪感を享受することを。

きっと、それこそがデルマーノの憎悪の根幹なのかもしれない。

そんなことを、ふと思ったのだ。
けれども、今は感慨に浸っている時ではない。
自分たちエリーゼ付きの近衛騎士は、ジルたちの来訪によって三班に別れたのだった。
まずは退避路の確保を務めるジルやマリエルたちのいる班。
そこには相当数の近衛騎士が割り振られている。
次にヘルシオが率いるウェンディの貴族を確保する班。
こちらは逆に少数による隠密性が重視され、ヘルシオの他にはフローラとエド、あと素早い身のこなしを得意とする数名の騎士しか参加していなかった。

そして、最後に自分も名乗りを上げたのだが、主君エリーゼを奪還する班だ。

まず、状況から考えてエリーゼが――そして、共をしていた隊長と副隊長もだ――、捕らわれているのは間違いない。

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