元隷属の大魔導師 280
「っ?」
十数人の黒装束たちの間に緊張が走った。
デルマーノは、笑う。
「なんだァ?てめェらだけが正体を知ってるだなんて思い上がっていたわけじゃァねぇだろ?ええっ!『黒真珠』の秘蔵っこどもっ?」
「秘蔵はそっちだろう?これまで、秘匿され続けた『紫水晶』の愛弟子めッ!」
どうやら奴らの隊長格らしい、最初に姿を現した男が憎憎しげに睨んできた。
フードの中で、その鳶色の瞳が月のように細められる。
だが、それでもデルマーノは笑った。
「ヒッヒッヒッ!そんなに羨ましいか、同じ魔導師として、この俺の功績が?」
デルマーノは、また笑う。
対する男がフードの下で歯噛みしたのが察せられた。
しかし、それも一瞬――自身の優位を想起したのか、すぐに余裕を取り戻す。
ふんっ、と男は鼻を鳴らした。
「邪慳……貴様と我々、同じ六大魔導の弟子の間にある差とは、名を知られているか否か、だ。実力で、我らに勝っていると思うなよ?」
「ヒッ……ヒッヒッヒッ……。思うもなにも、実力を比べようとすること自体が愚かだろうよ。だって――」
デルマーノは腕を振った。
ブラリと、まるで酒場で注文を頼むような気軽さがそこにはあった。
だが……
「っ?」
集団の輪から一歩前へと出ていた男の胸を、歪な形をした円錐の氷柱が貫いていた。
どう見ても命を取り留めていないだろう。
仲間の、リーダーの死に『黒の塾』の面々が一斉に息を呑んだ。
デルマーノはもう一度だけ笑うと――
「そもそも、種族が違ェしなぁ。てめぇらの師匠の師匠筋と同じ存在だぜ、俺ゃ」
「リ、リッチ……」
集団の誰かが呟いた。
絶望的な、信じられないという声色である。
デルマーノは真摯な表情になると、スッと目を細くさせた。
「んま、秘密だぜ、こりゃァな?」
デルマーノは左手の掌を、虫を払うかのごとくヒラリとさせた。
……城の回廊から窓を覗くと、街の外――遥か遠方で、光が爆発した。
いや、その場面自体を目撃した訳ではないのだが、しかし、アリアにはそれが魔導に由来した爆発なのだと確信できた。
この距離からでも視認できるほどの光の奔流――
「デルマーノ……また、無茶してるのね……」
そう、誰ともなしに呟いた。
アレは、そうだ。
彼と出逢った日に、彼が放った魔法である。
ずいぶんと懐かしい気がした、
ずっと前のことにも思えるが、けれど、実はまだ一年も経ってはいないのだが……。
「ゅっ――」
アリアは、そこで呼気を鋭くさせた。
糸が切れたかのように四肢を脱力、青色のカーペットが敷かれた床へと転がる。
直後、いままで自分がいた場所に銀色の煌めきが走り、大気が唸った。
アリアは、視認こそできなかったが、それが投擲用のナイフの類だと直感的に悟る。
弓矢にしては大きな像であったし、魔法攻撃ならばもっと早くに敵の存在に気付けたはずだからだ。
なにせ、魔導師などは――もちろん、デルマーノやヘルシオらのように戦闘訓練を受けたものはべつだが――、殺気ひとつも隠せやしないのである。