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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 282

まず、手始めに――つまり、皆、期待ひとつもせずに会談場所であるとウェンディから伝えられていた東側の大貴賓室へと向かった。
行かせまい、と進路を塞いできた幾十人もの衛兵を斬り伏してようやく目的地へと辿りついたのだが、やはりというか、もぬけの殻であった。
よって、自分たち近衛騎士計二十三名はさらに複数隊に別れることにしたのである。
けれども、アリアと同じ隊になったムーニーという着任したての若い女騎士が早々に負傷してしまい、同じく分隊の二人の同僚に付き添われ撤退してしまった。
ただ、これは仕方ないのである。
ムーニーは、下手に浅い傷だったために頑なに撤退を了承せず、その結果、力任せに『撤退』させたのだ。
いや、勝ち気な後輩のことなど、この際だった。
ともかく、自分は一人で敵地を駆け、姫たちを探さなけばならなくなってしまったのである。

……ひとり残ると言い張ったのはなにもムーニーだけではなかった、ということだ。

でも、違うのだ。

あの後輩とは異なり、自分は――客観的に評価して――実力はあるし、単騎で行動しても危険性はグッと低くなる。
というのも、複数人で移動すれば、それは心強いものだが、敵が常にこちらよりも少数だとは限らないのた。
そもそも――どこかの吸血鬼たちみたいに派手に暴れて、目立ちでもしないかぎりは――、一人、二人で見つかるようなことは滅多にあるわけでもないのだ。

――または、よほど特異な星の下にでも生まれないかぎりは。



「っ?」

ぞわり、とうなじが痺れた。
アリアは足音を殺すようにした隠密な駆け足から、さらに加速、跳躍する。

ゅっ……

空気が斬られた。
今度は間違いなく矢だ。
短く、鏃を重くした屋内用の短弓である。
石造りの壁に刺さったソレは、その冷たい壁の表面を砕いた。
なかなかの威力である。きっと弦の張りが強いのだろう。

「っ!」

再び、血の気の引くような脅威の予感に、今度は武器がわかっているのである、風の魔法障壁で自身を守った。
唸る大気の盾にアリアの一歩半ほど先の中空で鏃までもが真っ黒に塗られた短めの矢が止まっている。
またもや、実戦慣れしている輩のようだ。
こんなに強者と遭遇してしまうなんて――

自分はなんて運が良いんだ!

これだけの特殊な兵種を配置している先になにもないなんてことはないはずだ。
退避路を確保するため近衛騎士たちに主戦力をさかれている今、ウェンディが擁する戦力の中では上々の彼らなのである。

「っ――ぁっ!」

気合いの呼気と共に短弓の矢を空圧で弾き飛ばすとアリアは矢の進行方向から逆算して、敵の居場所を推察、そのまま、その方へと駆け出した。
もう尋問する必要はない。
どうせ、何の情報も得られやしないのだ。
発射直後に移動したのだろう、アリアの行き先には壁しかない。

「ふんっ」

けれども、鼻で笑う。
そも、弓矢というのは直線にしか――基本的には、だが――攻撃できない武器だ。
その長所は間合いであって、決して移動しながら、しかも屋内で用いるのに優良な武器ではない。
もし、自分が相手の立場だとしたら、

「――っそこ!」

アリアは、今度は敵の攻撃よりも早く、その居場所を突き止めた。
死角、かつ、奇襲に失敗した際にはすぐに移動ができる――そんな場所などがそうそうあるわけがない。
背後の、廊下の装飾として張られた色幕の鮮やかな紅い表面を、アリアは愛剣で斬り裂いた。

「っぃ……」

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