元隷属の大魔導師 27
よく見れば少女の顔色は悪い。
少女が何かの病なのだろう事をアリアは悟った。
「で、盗んだと……安直だな。まるでガキだ」
「貴様っ……」
デルマーノはローザの視線を素知らぬ顔でズカズカと少女へ近付き、顎を持ち上げる。
「あん?………ほぅ…………成る程……おい、女ぁ?それじゃ、一時的にしか治んねぇよ……」
その台詞でやっとデルマーノが威嚇ではなく、診察をしていたのだと分かった。
「そんな……」
「だから言っただろう、無駄だと。コレは治らない。お前が罪を犯す必要などなかったんだ……」
「でも、老主!私は…」
ローザはラインバルトへ乞う様な視線を向ける。
ラインバルトはその視線を受けると隣に座る少女の命を憂いたのか、俯いた。
「……けっ、治らない事はねぇ。それじゃ治らないっつっただけだ」
「お前……」
「狗、貴様に続きお前ね……良いか、この街の東の外れに屋敷がある。そこに毎週、薬を取りに来い。3ヶ月もすれば回復すんよ」
ローザは疑惑の目を向ける。先程まで剣を向けていた相手がいきなり親身になったのだ、仕方無いだろう。
「疑うのは勝手だ……だが、俺ゃ…コレに誓う。兄弟は裏切らねぇ」
デルマーノは左腕を擦って言った。
「………」
「薬代は俺が死ぬまでにくれりゃ良い。それの弁償代も含めてな?」
彼の言うそれとはローザの盗んだ薬瓶の事だ。
「………すまない」
「けっ………あぁ、それと俺とこの女に手は出すなよ?」
「兄弟、お前には敵意を向ける事はない。しかし……」
ラインバルトはアリアを睨んで言う。
「ヤフーに来た貴族をタダで帰すわけにいかない」
一昨日、デルマーノから聞かされた元隷属の王族、貴族、市民に対する感情。それをアリアは理解できても解消する術がなかった。
例え貴族と言えども無力な己を哀しむアリア。
ラインバルトのみならずローザや他の者達からも険悪な視線が降り注ぐ。
その時……
グイッと肩を引き寄せられ、デルマーノの右腕に抱かれた。
「っ……ぇ…?」
「ふんっ……コイツは俺の女だ。俺の言いてぇ事は分かるな?」
「ちょ……デルマー、んむ………」
右手で口を塞がれ、反論を封じられる。
鼻孔を擽(クスグ)る彼の柔らかな匂いにアリアは顔を真っ赤に染めた。
「つまり……身内の身内は、身内と同じ…と言うことか?」
「イッヒッヒッ…ご名答」
「くっくっくっ……デルマーノ、お前は本当に面白い男だな。良い兄弟に出会えた事を誇りに思おう。おいっ……通せ」
ラインバルトの指示に男達は小さく頷き、二人を通す道を作った。
暫く、アリアを抱き寄せたままデルマーノは歩いた。
ヤフー街の外れまで着くと漸く解放する。
「デルマーノ……その…」
「悪かったな。俺が突っ走った所為で危険な目に合わせちまった」
「そんな事は………でも『俺の女』って」
「あの時はそう言うしかなかったからな。不愉快なら謝んが?」
「ふ、不愉快どころか……え、と…ね」