元隷属の大魔導師 259
「ふん。取り違えるな。己の教育に間違いはなかった。マリエルが、育ちかたを間違えたのだ。見ろ、マルスランなどは立派に育ったぞ?」
「……ねえ、ふたりとも?喧嘩売ってるよね、結構、直接的に」
マリエルが犬歯を見せるようにして、ふたりの兄貴分を睨んだ。
けれど、悪びれる雰囲気のない――むしろ、なにを怒っているんだ?
と、いう面持ちのデルマーノとエドを目に、諦念の溜め息を吐き出した。
「ああ、もういいや。それで、デルマーノ?あっちはほったらかしでいいの?私たちとしても紹介の一つはして欲しいんだけど……」
「けっ……」
デルマーノがガシガシと頭頂をかき、歩み寄ってきた。
アリアのすぐ隣に立つと、エドやマリエル、未だに当惑する少年たちへ向き直る。
もう一度、髪をかいた。
「この赤毛の女騎士――」
「アリア・アルマニエ、だろう?名はとうに聞いた。なかなか見所のある娘だ」
「娘って、おまえ……下手したら年上だぞ?――まあ、いいが。見所があって当然だ。俺の恋人……いんや、婚約者だかんな」
「ちょっ、デルマーノ!」
アリアは叫んだ。
もう少し、なんというのか、情緒があって然るべきだと思った。
……気恥ずかしいではないか。
しかも、マルスランを打ち倒した後なため、余計にだ。
見ると、エドやマリエルは凍りついている。
この寒い中、額に汗をにじませつつ、エドゥアールが絞るように呟いた。
「…………こん、やくしゃ?」
「おう」
怪訝に眉をひそめ、それでも、デルマーノが是の旨を伝えた。
エドは尚も、うなされたような表情で詰問する。
「それは、文字通りの意味か?なんというか、シュナイツでは親しい同僚を婚約者と呼んだりするとか、そんなわけではなく?」
「言いたかねぇが、バカなのか?」
「ほん、とうに?」
未だ、納得のいかないと、疑念を浮かべるエドゥアール。
そんな金髪痩躯の青年へデルマーノが、なにか言おうと口を開きかけた。
しかし、それに先んじ、シャーロットが――もっとも、空気を読まない天真爛漫さに定評のある真血種の吸血少女が話しだしてしまう。
「ついでに、私、シャーロットはお兄ちゃんの……奴隷かな?んで、この隣のエルフが――」
「ジルと申します。デルマーノ様に全てを捧げる玩具です」
シャーロットに振られ、ジルも臆面なく答えた。
……まあ、当然なのだが、場に衝撃が走る。
マリエルなど、口をあんぐりと空けていた。
すかさず、デルマーノがシャーロットの頭頂を叩く。
……手の平で叩くあたりは、まだ、理性が残っているのかもしれない。
「いったぁ〜いっ」
「当然だ。痛くなかったら、痛くなるまで叩いてやんよ。んじゃ、次はジルだが……」
「ほぁ……」
デルマーノがジルをジトリと睨んだ。
吸血侍女エルフは、うっとりとした表情で頭を下げ、待ち構えているのだ。
それは従順を通り越して、違う何かにアリアには見えた。
「つ、強めにお願いしますっ」
「……。止めだ、止め」