元隷属の大魔導師 258
「っ?」
場の者たちが、一斉に声のほうを見た。
そこには、赤毛の修道女が、腰に手を当てて立っていた。
神に仕える身としては、なかなか好戦的な吊り目だ。肌も日に焼けて健康的だし、桃色の頭髪がヴェールが零れていた。
そんな修道女が、結構な剣幕で叫ぶ。
「あんたたち、バカじゃないのっ?いい歳して、張り合っちゃってさ!バカっ!」
「マリエル……」
デルマーノが、そっと呟いたのが聞こえた。
アリアは、それが彼女の名前なのだと判断する。
「なんだ?すでに会っていたのか?つまらん」
「はっ」
一旦、矛先を収めることにしたのか、残念そうに首を振るエドへデルマーノは鼻で笑って返した。
そんなふたりへ、のしのしと――とことこでも、すたすたでもなく、だ――歩み寄った修道女、マリエルは、おもむろにデルマーノとエドの頭頂を叩いた。
左右の手で、同時にである。
まぁ、当然だが、叩かれた青年ふたりは非難の声を上げた。
しかし、それもマリエルは両者の頬をつねることで、鎮める。
「い〜いっ?まず、エド!あんた、このガキんちょどもに、いつも、なんつってるっ?」
「いひゃ、まず、ふぁなせ……」
「わけのわかる言葉で話しなさいよっ!エド、アンタはいつも、耳の奥が腐るほど、何度も何度も、人と人とは調和が大切であり――、なんて、このガキどもに言ってんでしょうに!それを、十五年も前のカビの生えた手柄かどうかもわからないことをグジグジとぉ〜〜っ!」
そこで、桃色頭の修道女は矛先をデルマーノに移した。
「そも、デルマーノにいたっては、究極的にいったら外の人間でしょっ!来訪者でしょっ!だったら、遠慮の一つくらいしたらどうなのよ!それを、私に、いやに重たい杖を持たせて、自分はサッサと先に行き腐ってっ!」
「んで……俺の杖は?」
ようやく、頬を解放されたデルマーノが、話しの流れからして、その修道女に預けたはずなのだろう、自身の杖が見あたらず、怪訝な面もちになった。
すると、マリエルはなんともないように答える。
「邪魔だったし、捨てた」
「オイ!」
「冗談よぉ〜。ちゃんと、人に預けておいたわ。……見ず知らずのオジサンにね」
「マ〜リ〜エ〜ル〜!」
「これも、冗談。まったく、沸点が低いわね。しっかり、信用の置ける人物に預けてあるわ。後でとってくるから、そうイライラしなさんな?」
デルマーノが珍しくも、感情的に地団駄を踏んだ。
アリアは、ふと、修道女の物言いから、すぐそばにいる吸血少女のことを連想してしまう。
こっそりと観察してみると、ヘルシオやフローラ、ジルすらもチラチラとシャーロットを窺っていた。
こちらが、そんな反応をしている間にもデルマーノの方も問答を続けている。
マリエルと話していても拉致があかないとでも思ったのか、いつの間にかにデルマーノの怒りの矛先はエドゥアールへと移行していた。
「エドッ!てめぇの教育がわりぃから、マリエルの性格が歪んだぞコラ!」