元隷属の大魔導師 257
「ヒッ、ヒヒッ……イッヒッヒッ!よかったなァ、生きていて――兄弟」
デルマーノが、二本の長剣を大地から引き抜く。
その動きから、やはり、その剣は相当の軽量長剣だと見受けるアリア。
……だが、今はそんなことよりも大切なことがあった。
「きょう、だい?お兄ちゃん、の?」
背後から、シャーロットの呆けた声が聞こえてくる。
アリアは、胸の内だけで「やっぱり」と呟き、立ち上がろうとするエドに手を貸す恋人の姿を見つめた。
エドが、その面長で少し頬の痩けた顔を間の抜けたモノにして、デルマーノを観察する。
デルマーノの顔を凝視し、チラリと背中に羽織るマントを見つめ、再度、顔へ視線を送った。
そして、ふっ、と頬を弛ませると、差し出されたデルマーノの左手を握り、立ち上がる。
「……デルマーノ――だよな?」
「ヒヒッ!ご名答。ひさしぶりだな、エド」
「っ!――ああっ、本当に久しぶりだ、兄弟っ!」
エドゥアールは、デルマーノの肩をおもむろに抱いた。
三度、バンバンバン、と相手の背中を回した腕で叩くと、抱擁を解く。
先ほどまでとは打って変わった、イキイキとした顔でエドは続けた。
「なんだっ?魔導師なんてやっているのかっ!」
「んぁ……ま、な。で?その……倒れてんのが、マルスランか?」
デルマーノは、一度、かぶりを振ると少年たちに介抱されている巨漢を見つめた。
吹きだすのをこらえるように、エドは頷く。
「ほう?よくわかったな?」
「ヒヒッ……そう言いてぇ気持ちは、わかんよ。んま、元気そうでなによりだ」
「おまえもだ、デルマーノ。十五年ぶりだというのに……な。変わらず、いい腕だ。これで、己の勝敗は七勝九敗。負け越しだな」
「ああっ?」
そこで、ピクンとデルマーノの眉が跳ねた。
「俺ゃ、七回も負けちゃいねぇぞ」
その言葉に今度は、エドが眉を跳ね上げた。
「……。いや、己は、七勝している」
「してねぇ。もし、あのキメラ相手にしたときのことを言ってんなら、そりゃ、勘違ぇだ。アレは俺の手柄――俺の一勝だぞ」
「ふん。十五年も経つと記憶が美化されるからな。ならば、レッサードラゴンのときのは己の一勝にしてもらおうか」
「はっ。ありゃ、おめぇ……早々に戦闘不能になっただけじゃねぇか」
「だが、そのお陰で、貴様は右手でモノを掴めるんだ。己の一勝だな」
「てめぇこそ美化してンだろうがっ。おお、上等だ、コラ。今度は寸止めナシだ」
「もう一戦交えるか?いいだろう。いつかの、貴様に盗られた肉片の借り、返してくれるっ!」
初めこそ親密であったものの、次第に剣呑としていく元隷属の青年ふたり。
アリアたちや、少年らが、ただただ傍観する中、デルマーノとエドゥアールがそれぞれ、地に刺さったままの双剣に手を伸ばした。
――止めるかっ?
そう、アリアが思案したときだ、殺伐とする空気を高い女の声が切り裂いた。
「っ〜〜んのっ、バカ!バカ、ふたりっ!止めなさいよっ!毎度毎度、毎度毎度……十五年経っても、成長したのは身体だけっ?」