元隷属の大魔導師 253
「ヘルシオひとりで……この人数をどうにかできちゃうの?」
「えっ……と、できるよね?聞くまでもないんだけど」
シャーロットが、未だに疑問点を理解していない表情でヘルシオを見つめた。
フローラとアリアが見守る中、ヘルシオは頬をかきながら、どこか照れたように答える。
「それは、まぁ……あんまり、彼らを刺激したくないんで明言はしませんけど」
「――っ!」
アリアは、声を失った。視線を巡らせると恋人であるフローラも目を見張って、隣に立つ魔導師の青年を凝視している。
「おいおい……いま、なんつったよ?」
刺激したくない、といいながらも、結局、刺激してしまったようだ。
周囲を取り囲む少年たちが、ヘルシオへと口々に罵声を浴びせる。
さらに困ったようにヘルシオは肩をすくめた。
「だから、言ったでしょう。シャーロットが、余計に騒ぎ立てるから……彼ら、怒ってしまったではないですか」
「……私には、トドメを刺したのがヘルシオに見えたんだけど?」
「それは、気のせいですね。間違いなく」
「うっわー。女の子に責任転嫁してきた。この男、最低だよ」
「だ、誰が女の子ですかっ?年長者が責任をとるのは自明の理――」
「へっへ〜ん。一番の年上はジルだもんね。ヘルシオのバーカっ」
「シャーロット様っ?なにげに、私を巻き添えにしようとしていませんかっ?」
「ちっ」
「なかなかの表情で舌打ちしましたよ、この子」
「とっにっかっくっ!やっちゃいなよ、ヘルシオ!」
「……。結局、私ですか」
三人の魔導師が、口々に自分勝手なことを言い合う。
アリアは、閉口した。
可哀相に、デルマーノやシャーロットと暮らしているあまり、ヘルシオも彼らに毒されてしまったようだ。
この(ある意味)著しい成長を見たゼノビス閣下はどう思うだろうか。
…………。まぁ、逞しくなってよっかた、のか?
アリアは、誰とはなしに首を傾げた。
そんな間にも、事態は展開をみせる。
「エドさんっ!やっちまっていいっすよね?」
取り囲む少年たちの中では、それなりの位置にいる人間なのだろう、長剣を構えた栗色の髪を丸く刈りそろえている少年がエドへと叫び訊ねた。
「…………」
エドは無言で、その少年を見返す。
アリアには判断できなかったが、少年には彼が拒否の意を示したことがわかったようだ。
「なんでっすかっ?こいつらは外の人間で、俺たちは奴隷の出身でしょっ?」
おそらく、この場の誰もが知っているだろうことを高々と述べる少年。
アリアは、彼のその思考こそが――それこそ、カルタラの民の隷属出身者差別意識と同じくらい――根が深くも、正さなければならない問題だと思った。
もしかしたら、エドゥアールもそのような心持ちもあるのかもしれない。金色の髪の青年は頷こうとはしなかった。
しかし、相手は血気盛んな年頃の、しかも、圧倒的な数的優位、性的優位を獲得している(と勘違いしている)少年だ、しびれを切らした。
「ちっ……オイ、てめぇらっ!構えろっ!」