PiPi's World 投稿小説

元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 245
 247
の最後へ

元隷属の大魔導師 247

「なのにっ、なんでだ……なんでなんだよぉ…………」


助けられなかった哀しみ。
無力な幼き己への怒り。
ウェンディという国と民への憎しみ。
ソフィーナへのただただ至上の感謝。

「俺は……ソフィー、ナ……俺はっ……魔導師に、なったよ……アンタの父親の、弟子だっ……もうっ、大陸でも……有数の魔導師になった……」

デルマーノは自身の頭を抱えるように両の手の平に収めると続ける。

「ありが、とう……言えなかった、けど……ありがとう……ごめん…………ソフィーナ……」

幼少の頃から変わらない耳ほどまでの黒髪、それをかきむしる。
額を机に叩きつけた。
自分に、自分たち隷属者なんかに関わりあわなければ、死ぬことなんかなかった。
あんなに優しく、気高く、素晴らしい女性が死ぬことなんてなかったんだ!

「あっ、ぁ……あぁあぁぁっ……あああぁぁっ!」

頭を机に押し付け、さらにその頭を手で押さえつけるデルマーノ。
取り戻しようもない、大切な存在……。
吐き出すように泣き続けた。




「――デルマーノっ!」

バンッ、と礼拝堂の扉が開けられた。
デルマーノは声を詰まらせる。
声でマリエルが戻ってきたのだとわかった。
向こうもなんだかんだと言っていたから、ここで自分が独り、感傷的に落ち込んでいるのは隠すほどのことでもないが、さすがに泣いている顔を見られるのは成人男性の沽券に関わる。
デルマーノは懐から小手ぬぐいを取り出すと手早く、顔をぬぐい、乱れた髪を整えた。
もともと、さして整えているわけでもない髪形だ、マリエルが入り口から自分の座る最前席に来るまでには復元は完了する。
すっと息を吸い込み、心をいつものように鎮めた状態に戻すとデルマーノは顔を上げた。

「――なんだ?」

「うっわ。もしかして、泣いてた?」

「うるせぇ」

口元に手を当てて、大仰に驚くフリをする修道女にデルマーノは悪態吐く。
からかわれている自覚はあるのだ。

「で?どうした?」

「あっ――そうだった!デルマーノのおセンチなんてどうでもいいんだよっ!大変なの!」

「言うに事欠いて、おセンチなんて、だと?本当なら死ぬほど追及してぇのはやまやまなんだがよ……どうしたんだ、一体?」

「外で!エドと、マルスランがからんでるのよっ!」

「エド?マルスラン?」

デルマーノは十五年前の記憶を呼び起こす。
エド――エドゥアールとマルスラン。
このふたりは自分やマリエルと同じ、子供たちだけの共生団の一員、有り体にいえば兄弟だ。
エドは同い年、らしい鈍い色の金髪の、目つきの鋭い男だった。まあ、目つきは自分の言えた義理ではないが。
一方、マルスランはマリエルと同じくらいも歳だった。当時はマリエルよりも発育に遅れ、クリクリとした藍色の双眸が印象的な弟分だ。

「その、ふたりがどうしたんだ?つーか、俺に報告する必要性がわからないんだが……」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す