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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 246

「毎度あり、と言わねぇだけのモラルはあるようで安心した」

「そんなこと言いませんよ〜だっ」

マリエルは舌を小さく出して、デルマーノを挑発した。

「はぁ……。ガキじゃねぇんだから、その所作は止めろよ」

「そりゃ、ガキじゃないよ。大人のオ・ン・ナ」

「どこがだ?」

「少なくとも突っ張って、タフぶっている男っていうのは意外とセンチだって知ってるくらいには……」

「なに?」

デルマーノは怪訝に眉をしかめた。
マリエルは口元に手を当て、含み笑いをもらす。

「んふふっ……んじゃ、私は用があるから」

「あっ、おい!ちょっと、待――」

デルマーノの制止の声も聞かず、妹分の修道女は教会の立て付けの悪い扉から出て行った。
ちっ、と舌打つデルマーノ。

(俺が、センチだぁ?)

突っ張った、タフぶるヤツってのが自分のことだと言う自覚はある。このウェンディに赴くにあたって、少々、気を巡らせていたことも確かだ。
しかし……、

(いや。センチだ、感傷的だって言われても……仕方ねぇか……)

諦めたように首を横に振った。
改めて、今度こそ完全に無人の礼拝堂を、その中心に立って眺めてみる。
この場所は遥か十五年前、自分の学び舎でもあった。
自分の固定席――東側、つまり祭壇から見て右側の一番前の席だ。
デルマーノはなぜだか、足音を忍ばせてその席へと近付くと椅子の上に積もったホコリを払い、腰を据えた。
座高は高くなっている。それでも、どこか懐かしい景色である。
この席が自分の固定席になった理由は実は単純にして明快だ。
週に二回か三回、ソフィーナが勉強会を開いてくれた。
そのときは早く来た者から東側最前席から詰めていくのが慣わしになっていた。
つまり、自分はいつも、誰よりも早く勉強会に訪れていたということである。

「ヒッ……ヒヒッ……なんだそりゃ?どんだけ勉強が好きだってんだ、俺ゃ……」

好きだったのが、勉強?
それも詭弁だ。
デルマーノは思わず、経典を開くべく机へと両肘を付いた。
両手で顔を覆う。
それでも、指の間からは雫が染み出ていってしまった。

「っ……ぁ、っ…………ぅ!……」

声だけは決して立てない。
だから、激しくなってしまった息遣いだけは大目に見て欲しい。
柄にもなく、神にそう祈った。実に十五年ぶりの祈りの内容がコレとは、そのうち自分には天罰が下ることだろう。


――今日、この場所に来て、ソフィーナの死を受け入れた。
目の前で息絶えても涙は流さなかったのに、今は激情を治めることができない。
自分は、ソフィーナが好きだった。
大好きだった。
母として、姉として、教師として……そして、女性として。

「ぁっ、ぅぁっ…………ぁぁぅっ!」

人の死がこんなにも悲しいものなのか?
自分は、奴隷街で、師の元で、近衛魔導隊の隊長として、いくつもの死を見てきた。

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