元隷属の大魔導師 243
(なにを言っているんだ、俺ゃ?ソフィーナは死んだんだ。目の前で……。マトモになれよ、なぁ?)
よくよく観察すれば、似ているのは背丈と修道服を着ていることだけではないか。
顔立ちは彼女と比べるまでもなく、気の強そうな大きな瞳の双眸と細い眉だ。
髪も桃色に近い赤毛。まあ、短髪なのは似ているか。
肌は黒く、健康的な雰囲気である。ソフィーナは色白だった。
要は人違いをする要素すらもない。
僅かに赤面したデルマーノはすぐさま、謝罪する。
「すまねぇ、人違いをした。自分でも恥ずかしくなるくらいのな」
「はぁ。さようで?」
「ああ。昔な、この教会に知り合いが詰めていたんだが、彼女は死んでしまったんだ。その父親が俺の師匠なんだよ。遺品の一つでも残っていないかってな?」
十五年も前だ、期待薄だけどよ、と続けたデルマーノは小さく頭を下げるとその修道女の脇を通り抜け、礼拝堂へと戻ろうとした。
思い返してみれば、聖具や祭壇は綺麗に掃除されていたではないか。
そこで後任者がいることに気付くべきだったのだ。
(とことん、節穴になっていたようだな。俺の目は――)
再度、自嘲する。
だが、礼拝堂に出ようとしたときだ、先の修道女に呼び止められた。
「貴方の知り合い……それは、ソフィーナさんのこと?」
「っ!知ってんのかっ?」
「それは、もう。というか、もしかして貴方……デルマーノ?」
「はぁ?」
思わず、最悪の部類の返答をしてしまった。
僅かな後悔を覚えながらも、デルマーノは聞き返す。
「……なぜ、俺の名を?」
「あはっ!やっぱり、デルマーノだったんだ!」
「ぅお?」
修道女がパッと顔を輝かせると突如、抱きついてきた。
デルマーノはとっさに己へ迫るその両腕を掴んでしまう。
すると、その反応さえも嬉しいのか修道女はコロコロと笑った。
「っと……。ふふっ、いい反応だね?」
「てめぇは……だれなんだ?」
「ああ〜っ!まだ、わからないのっ?」
修道女は頬を膨らせた。
この表情、あの真血種の幼女シャーロットに似ている。
――いや、違う。
デルマーノは自身の胸で芽生えた感想を否定する。
ジャーロットに似ているんじゃない。シャーロットが似ていたんだ。
シャーロットを初めて見たとき――まあ、あの晩だ――自分はなんと思った。
「まさか……マリエル、か?」
「んふふっ、正〜解っ」
少女が今度こそ特大の笑顔を浮かべると左手首を僅かに動かし、修道服の袖から、あの奴隷出身の証である焼印を見せてきた。
やはり、とデルマーノは頬を弛ませ、彼女の両腕を解放する。
若き修道女は飛びついてきた。
背中に回された腕がギュッと締め付けられる。
少し苦しいくらいだったが、デルマーノはそっとその少女の頭を撫でた。