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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 242

アリアはデルマーノからのウェンディについての数少ない情報を纏めてみた。

「……。――あっ、もしかしたら」

「えっ?なになに?」

期待に満ちたフローラへ、半信半疑のアリアが答える。

「多分、奴隷街に行ったんだと思う。デルマーノからウェンディについて聞いたのは、臣民の悪辣さを除くと奴隷街で暮らしていたことだけだから……」




「――帰ってきた、か。実に十五年ぶりじゃネェかよ、おい」

朽ちた家々の並ぶ通りにふと顔を出した教会の三角屋根。
周囲の建物よりはいくらかマシという程度の荒ら屋教会――木製のその壁はささくれ、くすみ、しかしながら、所々、隙間のできた薄い扉の上に設えられた真鍮製の聖具だけはピカピカに磨かれ、神聖さを保っていた。
十五年前より一層、朽ちた印象を受けたが、特徴に変化はない。
けれども、記憶よりも小さく感じた。自分の背が伸びたためだろう。
クツクツと喉の奥で転がすように、静かに郷愁の笑みを漏らすと黒髪を耳に被るほどまでで揃えたシュナイツ王国の宮廷魔導師――デルマーノは扉のノブに手をかけた。
錆びた蝶番が悲鳴を上げる。
しかし、油は塗ってあるようで、引っかかりはしなかった。
スムーズに開いた扉の先、教会の大部分を占める礼拝堂に直結する。
あかりとりから雲間を抜けた僅かな陽光が室内に色彩をもたらせていた。
身を滑らせるようにデルマーノは入室し、扉を閉める。
外の聖具と同じように礼拝堂の奥に設えられた聖具も綺麗に磨かれていた。
デルマーノはそんな祭壇を横切り、礼拝堂の奥へと進む。
そこには二部屋の小さな事務室があるのだ。
そこで十五年前、ソフィーナは寝泊まりしていた。
あれから、あまりにも長い時間が経過してしまった。
期待などはしていなかったが、もし、ソフィーナの身の回りのものが少しでも残っているようだったら、我が師匠殿に持って帰ってやるつもりだ。
アリアと関係を持ち、成り行きながらもあのふたりの吸血鬼とも関係を持ち、さらには結婚の決心までもした今の自分だからこそ、些細な物でいいから、形見の一つでもあることでどれだけ救われるか、わかる。

――俺は、愛を知った。しかし、『愛』という言葉は意味に比べ希薄すぎる。

「イヒッ」と柄にもなく感傷的な己を自嘲するとデルマーノは二部屋のうち、手前側の部屋の扉に手をかけた。
その時である。

「――あの、どちら様でしょう?」

「っ?」

デルマーノは背後からの呼びかけにあわてて、振り返った。
背後を取られるなど、油断しすぎだ。
そう、自身を叱咤するデルマーノだったが、巡らせた先で視界に映った像に全身を硬直させた。
そこには不安げな面持ちで佇む、修道女が居たからだ。

「ソフィー……ナ?」

「はい?えっ、と……」

思わず、記憶の修道女の名を読んでしまったデルマーノ。
しかし、呆ける相手の表情を目に、かぶりを振る。


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