元隷属の大魔導師 241
扉を出たところに立っていた二人の衛兵を睨みつけることも忘れない。
「――ちょ、待って……待ってよ、アリア!」
「ん?」
城門を出たときだ、背後から荒い息に混じって少女の声に名を呼ばれた。
アリアは歩みを止めず、しかし、待てと言われたので少しだけ歩速を緩めて肩越しに後方へ視線を送る。
「ぅわ……」
アリアは小さく驚嘆の声を漏らした。
それも仕方ない。
背後にはぞろぞろと四人の人間が着いてきていたのだ。
声の主はシャーロットである。続いてフローラとヘルシオがおり、最後方に吸血エルフのジルまでいた。
この侍女吸血鬼が遠征に同伴することは珍しい。
しかし、旅程が長いことやノーク師の屋敷にメイドは二人もいる必要がないこと、そしてデルマーノの様子がおかしいことを薄々、察したこともあり、今回だけは着いてきたのだ。
まあ、旅費はデルマーノ持ちなのだが、普段は意地の悪い元隷属の魔導師は一言も悪垂れることもなく、払った。
存外、彼も日頃からジルには感謝しているのかもしれない。
ジルには――。
「な、なによぉ……アリア。そんな、じいっと見つめてきて?」
シャーロットが小さなその頭を傾げてきた。
そんな(デルマーノに確実に有り難がられてはいないだろう)真血種の少女へアリアは、さすがに本心を吐露するわけもいかずに曖昧な苦笑を返すしかなかった。
「そっ――それで、まぁ、シャーロットとジルはわかるとして、フローラたちはどうしたの?」
アリアは親友である金髪の女騎士とその恋人である濃い赤髪の魔導師へ視線を向けると疑問符を浮かべた。
フローラは、なにを当たり前な、と腕を組み、即答する。
「どうした?決まっているじゃない!デルマーノ君捜索隊に加わるのよっ!ねっ、ヘルシオ?」
「勿論です、フローラ。ターセル皇国も格調意識が高い国でしたが、この国のソレは異常です。そこはかとない偏執を感じます。由緒ある国の態度だとは思えませんっ」
ヘルシオが鼻息荒く、頷いた。
そういえば――、とアリアはふと首を傾げる。
いつの間にか、この二人は互いの敬称を無くし、呼び捨て合っていた。
まあ、くっ付いてから二ヶ月と少し経ったのだ、当然か。
「だから、さっさと行きましょうよ!アリア、心当たりは?」
アリアはフローラに背中をドンッと押され、訊ねられた。
タタラを踏みつつも、答える。
「心当たり……」
そう言われても、とアリアは顎に手を置いた。
なにせ、ウェンディに来たのはアリアだって初めてなのだ、地理感覚すらない。
「それよりも……ヘルシオ君たちに頼んだ方が早いんじゃないのかしら?魔導師が三人もいることだし……」
「あっ、ソレは無理。お兄ちゃんがよくわかんないけど、最近になって魔力の波動をいじくるナニかをしているから、この街のどっかにいる――ってくらいしかわかんないよ」
『ナニか』……増大の腕輪、か。忘れていた。
それだと、初手から詰んでしまったことになる。