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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 240

自身への苛立ちにデルマーノは舌打ちをした。
普段ならば絶対にしないミスだ。気合を入れなおす必要があるようである。

「ふんっ」

鼻腔から強く息を吹き出した。
この隊列にはアリアがいる。
自分の最も大切にしているモノが。

油断をするな。気を抜くな。自分以外を信じるな……。

「ちっ……ああっ!ったく、らしくねぇ。らしくねぇよ!」

あまりにも大きな独り言。
それも気にかける余裕がなかった。
自分の立ち位置が不明瞭でならいない。
俺は、誰だ?

――そう。シュナイツ王国近衛局近衛魔導隊々長デルマーノだ。
ウェンディの奴隷街に住む少年団のデルマーノじゃあ……もう、ねぇんだ。
わかってんよ、んなこと。

デルマーノは一度、瞼を下ろし、心を静かな所にもっていくと目を開けた。
斑雲の空、地平に延びる街道、所々に畑があり、林が生い茂る。
大丈夫だ。いつもの、デルマーノである。
デルマーノは小さく溜め息をついた。




「では、私は姫のお供として御台に上がりますので……ここで一度、解散しましょうか?」

第一王女付き近衛騎士隊長エーデル・ワイスが隊員に向かってそう告げた。
アリアはウズウズと足を小刻みに動かす。
ここウェンディ王国王城ケルヘルゴードの一角に設えられた多人数用待機室に第一王女付き近衛騎士団と近衛魔導隊の面々が顔を揃えている。
だが、デルマーノの姿はなかった。
現在、暫定的にエーデルが近衛魔導隊の指揮権を有しているのだが、その隊長であるデルマーノがいないのには理由がある。
アリアはふと待機室の木枠窓に目を向けた。
季節は冬だ、カルタラの北方に位置するウェンディの空はどんよりと曇り、いつ雪が降り始めてもおかしくはない天気である。

デルマーノがいない理由……それは簡単だ。
入城を拒否されたのである。
今日の朝方、エリーゼ王女一行はこの城へと到着した。
出迎えたのはウェンディ皇太子アルザック。
三十過ぎの優男である。が、自ら騎士団を率いているらしく、その武勇はシュナイツにも聞こえていた。
『群青の美将軍』の名に相応しい青髪の美丈夫てあるが、アリアはこのアルザックという男が嫌いだ。
いや、今日、嫌いになった。大嫌いだ。
なにせ、到着早々、エリーゼ王女への挨拶も短く、

「デルマーノという名の奴隷がいるらしいが、我が城の門をくぐらないでいただきたい。当方もコトを荒立てたくはない」

と言ってきたのだっ!
国賓の護衛なのだ、扱いにはそれ相応のモノがあって然るべきじゃないのか。
こんな、個人を名指ししての入城拒否など聞いたことがない!
以前、デルマーノが言っていた『貴族』の非道さをアリアは初めて知った。
あの時、もしシャーロットが飛び出し、もしデルマーノがその吸血少女を宥め、要求を受け入れる旨を言わなければ、アリアが斬りかかっていただろう。
愛しき男への謂われなき迫害を看過すれば、女が廃る。

ああっ!思い出しただけでも腹が立ってきた!

アリアは上司であるエーデルに手短に挨拶すると待機室を早足で退出した。

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