元隷属の大魔導師 24
「イヒッ…すげぇだろ?種を明かすとアレよ」
これまた完璧なまでに磨かれた窓から、デルマーノの指す方を見た。
馬屋の横に小屋状の何かを建てている、幾つもの人影が目に付く。
「あれは……ゴーレム?」
「十体も居れば掃除も直ぐだ。今はアルゴの昼寝小屋を建てさせている。もうじき終わるがなぁ…」
彼の言った通り、瞬く間に完成したその小屋の前でゴーレム達は崩れ、土になった。
「…凄いわ、デルマーノ……流石は宮廷魔導師と言ったところかしら?」
「ヒッヒッ……ロートル共の思い通りになってたまるかっつ〜の」
彼は本当に嫌いな者へあからさまに反抗をしない。相手が意図しない行動をし、心の中だけでほくそ笑むのだ。
デルマーノの生態を理解し始めたアリアはそう解釈した。
「ヒッヒッ……で?俺に用があったから来たんじゃねぇの?」
「それは……」
アリアは純粋にデルマーノを心配して、様子を見に来ただけだ。特に用事があった訳ではない。
しかし、ここで彼にそれを言うのも気恥ずかしく、モゴモゴと言い訳を口の中で遊ばせていた。
「………っの……ぅ…」
「けっ………アリア。俺は今日、ここでする事は終わったんだが…」
押し黙るアリアにデルマーノは話題を提供する。彼が時折見せる優しい一面にアリアはどうしようもなく惹かれてしまうのだった。
「……わ、私も今日の稽古は済んでいて……良かったら…ディーネを案内する…けど………」
次第にアリアの声は小さくなっていく。
上目遣いで返事を待つアリア。小動物を思わせるその姿にデルマーノは虚を突かれた。
「ぅぉ……ま、この街にゃ不慣れだからな。頼むかね…」
「そ、そう?なら、行きましょ。支度は出来てるみたいだし…」
帰宅するという時に来たのだろう。
彼の手荷物は既に纏まっていた。
上機嫌なアリアにデルマーノは右袖を引っ張られ、局を出ていったのである。
ディーネはシュナイツ王都であり、カルタラ同盟国家群最大の商業都市でもある。
その為、都市は半日で案内するには余りにも広大であった。
アリアは悩んだ末、自分が普段利用する地域を案内する事にする。
ディーネの中心に位置するその辺りは治安も良く、大小様々な商会や商店が軒を連ねていた。
「ほぅ……栄えてんじゃねぇか…」
「………」
アリアはデルマーノを凝視する。
「…あん?」
「もっと田舎者丸出しな反応を期待してたのに…」
「うわっ、こんな数の人間がいるなんて…今日は何かお祭りがあるんですか?……みたいなヤツか?」
宮廷魔導師の口調で田舎者の真似をするデルマーノにアリアはそうそう、と頷いた。
「はんっ……俺はウェンディの出身だし、別に十四年間ずっと塔に引きこもってた訳じゃねぇよ…」
「へぇ〜…なんか残念ね」
「…俺の間抜けな面を見たかったのか?」
「ううん……デルマーノの全部を見たかったのよ。普通は見せないような、ね」
「…………それはワザとやってんのか?」
「えっ、何が?」
「けっ……天然か。末恐ろしいな…」