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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 25

彼女のその愛らしい仕草は図らずも、デルマーノへダメージを蓄積させる。
ジワジワと精神を蝕むそれとの戦いはデルマーノの直面する最も難易度の高い課題であった。




暫くはアリアが馴染みの店を幾つか紹介した。
彼女は目的があって道を進んでいるようで時々、早足になる。

「……ここよ、ここ。さすがにデルマーノも入った事はないでしょ?」

「そりゃな…若ぇ男が一人で入んには結構な勇気がいんぞ」

そこは劇場であった。
『マラネロ劇場』、その名前はディーネに来たことのないデルマーノでも知っていた程、有名な劇場である。

「新作が始まったばかりでね、来たかったのよ。これも貴方のおかげ♪」

「そりゃ、どぉも……」

劇場の接客員は近衛騎士や宮廷魔導師の紋章の編み込まれているマントを羽織った男女を一般客席へ案内する訳にもいかず、当日ながらも貴族席へ案内した。




席に着くと間もなく、劇が始まった。
内容は竜退治を領主から依頼された青年が奮闘し、最後にはその領主を討つという、少々奇抜な話しである。

劇を魅入るアリアの無邪気な横顔を見ていると、デルマーノは無性に彼女を熱く抱擁し、接吻をかましたくなってしまう。

(成る程な……これが、恋ねぇ。イッヒッヒッ…悪かねぇよ)

劇もクライマックスに入り、アリアはデルマーノの袖をキュッと握った。
男を魅了させる天才だな、とデルマーノは思うも、彼女の存在が胸の内で大きくなってしまうのである。




「面白かったわ♪デルマーノ、初めて劇を見た感想は?」

「けっ……まぁ、それなりに楽しめたよ」

デルマーノは劇場を出た後、アリアに連れられて日暮れの街を歩いていた。

「ふふっ……貴方流の賞賛と受け取っておくわね…」

「なにを………」


ガタッ…ガシャンッ!


「このっ……待ちやがれっ!」

デルマーノの悪態を遮る陶器が割れる盛大な音と罵声。
二人の前を襤褸(ボロ)を纏った人影が横切って、通りの路地へと消えていった。

「泥棒?……ね。待ちなさいっ!」

アリアがその襤褸を追って駆け出す。
はぁ、と溜め息を吐きアリアの後をデルマーノも続いた。

「いつも思うんだが……追われてる奴ぁ、待てっつって待つモノなのかね?」

アリアに並ぶとデルマーノは言ったが返事は無い。
相手は相当、駿足らしく離されない様、アリアでも精一杯なのだ。
仕方無いと彼は左手の指輪へ語りかける様に呪文を呟いた。

「アリア!俺ゃ、上から追うっ!」

『飛翔』の呪文の完成と同時に強く地を蹴り、飛び上がるデルマーノ。
アリアはコクリと頷くと、小さく視認する対象の後を駆けた。




夕陽の陰で薄暗くなった路地を未だ追うアリア。土地勘のある彼女は今いる辺りを理解していた。
ディーネで最も治安が悪い場所『ヤフー街』。騎士の巡回も行なわれない、犯罪の巣窟である。

(嫌な所、来ちゃったなぁ。もう…)

空から追うデルマーノの背中を見つめた。彼は諦めるつもりは無いようだ。

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