元隷属の大魔導師 23
「いや、いきなりだから左遷じゃない。干されてるだけ」
「何で、アリアはそんな冷静なのよっ!近衛魔導師隊っていったら……」
ギャアギャアとフローラはアリアの耳元で喚く。
耳を塞ぎながら、アリアは思った。
(……最初は驚いたけど…よくよく考えればあのデルマーノなのよ、あの態度の所為で忘れかけていたけど……只の宮廷魔導師だったら同情の一つもしたんだろうけど、デルマーノじゃ…ねえ)
「聞いてるの、アリア!」
「はいはい、聞いてるわよ……」
「……ごめんなさいね、ここが魔導師隊の詰所なんです」
本当に済まなそうにエーデルは言う。
その埃まみれで、カビ臭い部屋は二階の隅に忘れられた様にあった。
「……食堂や図書室もありますし、別にこの部屋にずっといろと言う訳ではないので…」
「いえ、少し汚れていますが掃除をすれば大丈夫ですよ。幼い頃はもっと不衛生な所で暮らしていましたしね…」
デルマーノのその発言をエーデルは強がりだと捉える。そこはやはり、彼女も貴族なのだ。
「……そうですか、手伝える事がありましたら気軽に声をかけて下さいね?」
心配そうに何度も振り返りながら、エーデルは退室した。
一人、静寂に包まれたデルマーノ。
「……ッ…イッヒッヒッ!良〜いねぇ?女王いくら奴隷解放を叫ぼうが、国の中枢がこれだっ。だからこそ………やり甲斐があらぁ!」
アリアの予想通り、デルマーノにこの程度では苦難にもならなかった。
「さぁ〜て……何からやるかね?」
「だからフローラ、彼は大丈夫だと言っているでしょ?」
「んな訳あるか!そんなタフそうには見えないよっ!」
二人は地下の更衣室から地上へ階段を上がっていた。
汗を流し、更衣室で着替えている間中、フローラはアリアに食い下がっていたのである。
「もうっ。あれは彼の一面でしかないのよ…」
「うわっ、大胆。私は彼の別の顔も知っている発言!」
「そう言う意味じゃなくて……」
フローラに閉口していると、一階と二階の踊場でエーデルと出会した。
「あっ、隊長……デルマーノ君の様子、どうですか?」
「フローラさん。それがね……その…何と言ったら良いのでしょう……」
エーデルが口隠る。常に冷静で落ち着いている彼女には珍しい事だった。
「………アリア、慰めてきなって!」
ホレ見ろと言わんばかりにバンッと強く、背中を叩かれたアリア。
最初から行くつもりであったので、背中の痛みに堪えながらも一人、階段を上っていった。
確かにエーデルの態度は気になる。デルマーノは気落ちしているのか。
彼に限ってそれはないだろうが、デルマーノも人間だ。万が一、という事もある。
アリアは階段から最も離れている、数ヶ月前から気にも止めた事のない部屋の扉を叩いた。
「………どうぞ?」
デルマーノの声に応え、扉を開ける。
「……え?」
アリアは己の目を疑った。
先程まで不清潔極まりない部屋が一変し、掃除の行き届いた簡素ながらも綺麗な部屋になっている。