元隷属の大魔導師 228
「ヒヒッ……さぁ、行くか?なにが呑みてぇ?」
「えっ?じゃ、じゃあ……林檎のお酒ってあるかしら?ほら、前に一緒に呑んだ――」
「ああ……カルヴァトスだな?あるよ。ここにはなんだってあるんだ。金を持っている客が欲しがるんだったら、なんでもな」
「……?それは、お酒の話しよね?」
「イヒッ」
「ちょっと……デルマーノ〜」
若干の不安を覚えながらもアリアは言及しなかった。
あまり深く突っ込まない方が賢明だと思ったのである。
飴色の液体の収められた瓶と差し水の瓶とをそれぞれの手に持ったデルマーノ。
そんな、降りてきたのとは違う方の階段をスタスタと上っていく彼をアリアは駆け足気味に追った。
「――んで?まず、なにを話そうか?」
「うん、っとね……」
アリアはほろ酔い気味の脳を回転させ、デルマーノの問いに答えようとする。
満杯だったカルヴァトスはもう、ガラス瓶の半ば程まで水位を下げていた。
しかし、頬が少し熱を持ち始めた自分とはうらはらに向かいに座る男は依然、素面と差がないように見える。
――本当に人間なのだろうか?
いや、違った。リッチとかいう不死生物になっていたんだっけ……。
そういえば、アレサンドロ?――そのような名のリッチの手記を使って人間の生活を続けると言っていたが、どういうことだろう?
今更だが、なにかとごたごたしている内に聞く機会を逸してしまったのだ。
――よし。
「じゃ、一つ目ね。デルマーノがカスタモーセ師から貰ったっていう『アレサンドロの手記』って――」
「『アルサンドロスの手記』な」
「んっ、そう。ソレって……どうなったの?」
「どうなったって――この通りだが?」
「もうっ!だから――」
「ヒッヒッ……冗談だ、冗談。そうだな、どう言ゃいいんだ?」
デルマーノはカルバトスを一口、さらに追い水を一口呑むと、その間にアリアにも分かるようにまとめたのだろう、端的に言った。
「俺はリッチだ。それは間違いない。しかし、ある特殊な魔導的制約を掛ける代わりに限りなく人間に近い状態になってんだ」
「人間に近い状態?」
「ああ。まず、身体能力――若干、高くはなってんが人間の枠内にいる。魔力もシャーロットに劣る程度に落としてるしな。んま、そういうこった」
「じゃ、じゃあ……デルマーノは人間なのね?――あっ、と、違うのは分かっているけど、その意味合い的に……」
「イヒッ……ご理解いただけたようでなによりだな」
クツクツと堪えるように笑うデルマーノ。
これは彼が機嫌の良いときに見せる笑みだということをアリアは知っている。
……まぁ、一見では意地の悪いモノにしか見えないが。
「んで?次に何を聞きたい?」
「……う〜ん。あの、さ……聞きにくいことだし、逆に話しにくいことだと思うんだけど……」
「……?なんだ?いいぞ、言ってもな」
「じゃあ――」
アリアは緊張の余り、渇いた口内を先のデルマーノと同じ順序で酒と水を口に含んで潤した。