元隷属の大魔導師 225
「そう、不貞腐れるな。本当じゃよ。おまえは、まぁ――なんとか吸血鬼の力を抑えているようじゃがの、それでも、リッチはリッチ。まだ、儂も死にたくはないしの」
そう言うとノークは「くっくっくっ」と実に若気の感じる笑い声を漏らした。
快活な笑みだ。
見るとデルマーノも口角を歪めて――密かに笑っている。
そんな師弟を目に、アリアは「この二人、これで良いのかもしれない」と胸中でコッソリと呟いた。
「まぁ、もう行くがの……あまり、飲み過ぎるなよ?早死にするからな」
「はっ――俺ゃ、吸血鬼だぜ?」
「それでもじゃよ。肉体は無限でも魂は有限じゃ。酔いでの高揚なぞ、所詮はその場凌ぎ。魂を生かすことはできんよ」
「へーいへい」
「ふんっ。では、騎士殿もこれで。揃いも揃っての馬鹿弟子、二人――よろしく、頼みます」
「は、はいっ!」
アリアに続いてデルマーノへと近寄ってきていたフローラは珍しく、緊張した声で答える。
それが可笑しかったのか、ノークは再々度、笑うと店を出て行った。
その時にすれ違った店員へ財布――若者が持つモノだ。おそらく、先ほど投げ捨てた騎士の者だろう――を丸ごと渡す辺りは流石だ。
――流石はデルマーノの師匠だという意味である。
「イヒッ……ヘルシオのことぁ、バレてんのか?」
「えっ?――ああ、うん。もう、速攻でバレちゃったんだ」
デルマーノが未だに立てないながらも、喉の奥で笑って弟弟子、ヘルシオの恋人へと訊ねた。
まさか、師匠に弟弟子の恋仲がバレていたとは思っていなかったのだろう。
アリアだってそうだ。
しかし、フローラはその金髪を掻くと居心地悪そうに笑って言った。
「へっ――ヘルシオも情けねぇなァ」
「でも……デルマーノ君とアリアなんてその日にバレたじゃんっ!」
「ぅぐ……あ、りゃあ、仕方ねぇだろ?アリアと仲良くなる前にジジイがそんな認識をしちまったんだからよ。アレだよ――老婆心、つーか、老爺心?」
「デルマーノ……流石にそれ以上は失礼よ。ノーク殿に」
「はっ……」
アリアの注意を鼻で笑いながらも、素直に聞くデルマーノ。
そんな女騎士と宮廷魔導師を、じーっ、と見つめていたフローラは口角を吊り上げ、手を打った。
「ああっ、私……これで帰るわね」
「えっ?でも、ちょっと――フローラッ?」
「んふふ〜。フローラちゃんは野暮天じゃありませ〜ん」
「や、やぼ……」
「そゆこと。男を励ますのは女の仕事だぜ?さぁ〜て、恋人を選ぶ親友から受けた傷心はヘルシオ君に慰めてもらおうっと」
おどけてそう言うとケラケラと笑うフローラ。
アリアはとっさに反論を試みたが、照れ過ぎて言葉を紡ぐことは適わなかった。
その間にフローラは店の出口から雑踏の中へと消えていってしまった。
店内に残されたデルマーノとアリア。
「……ど、どうしよっか?」
「はっ……俺の周りにゃ老若男女、気を利かせる奴らばかりだな。飲み直すか?もちろん、他の店でだがなぁ?」
「――うんっ」