元隷属の大魔導師 215
どうせ、自分たちの話しを聞いている者などいはしない、だろう。
そんなアリアの心情も知らず、デルマーノは二人分のお茶を持ってくると、一つをアリアに渡し、着席するともう片方を啜った。
その姿もまた、貴族顔負けの品の良さであり、アリアは少し、ムッとなった。
「……デルマーノ?」
「なんでしょう?」
「…………、……もぅ……」
「……?」
唇を尖らせるアリアへデルマーノは首を傾げた。
――きっと、素でも分かってないのだろう、この男は。
聡明で、頭もキレるが、デルマーノは女心には疎いのだ。
まぁ、言っても仕方のないことだ、諦めよう。
そんな、デルマーノだからこそ、自分は好きになったのだろうから……。
「……このあと、暇?」
「え?……ええ。ヴィッツ君との用事も済みましたし、ね……どこか、行きますか?」
「っ!…………で、でも、シャーロットたちが……」
デルマーノの魅力的な提案に瞳を輝かせたアリアだったが、すぐにその顔は曇った。
あの、二人の吸血鬼の目から逃れてのデートなど、できるのだろうか?
聴いた話しではジルは良いとしても、シャーロットはデルマーノよりも魔力が高いのだという。
そこであの――デルマーノがサグレスを捜す際に使った『探索』の魔法を使うのだ。
デルマーノは『魔力』は剣士で言えば『体格、腕力』であり、それを素に行使する『魔術』が『剣術』に相当するのだという。
ならば、体格で勝るシャーロットが――あまり、想像できないが――、適当に剣を振るってもデルマーノには防ぎきれない、ということになるのだ。
実際、何重にも張り巡らせた魔導障壁や対魔などのデルマーノの呪文をかいくぐって、シャーロットはデート現場へと乗り込んできた。
しかも、理由が嫉妬など、可愛いモノではなく――、
『アリアだけ、ズルイっ!私も一緒に――』
と、こうくるのだから質が悪い。
吸血鬼はモラルという言葉を知らないのか?
そう、疑いたくなってしまう。
だから、アリアは不安だったのだが、デルマーノは小さく微笑んだ。
素のときならば、「イヒッ」と笑った感じに近い。
「大丈夫ですよ。なに、私も木偶ではないですからね。ふふっ……」
デルマーノは可笑しそうに笑うと右手首に巻いたブレスレットをアリアに見せた。
卵白色のオパールが填められたソレを指で弾くと続ける。
「先日作ったのですよ。この『増大の腕輪』……」
「増大?……もしかして、魔力をっ?」
「いえいえ……そんな便利なものがあるんだったら、世の魔導師たちの苦悩の半分は消えますよ」
アリアは勢い込んで言ってしまったが、よくよく考えてみれば、確かに便利過ぎる。
自分の身に置き換えれば、呑むだけで身長が高くなり、筋力も上がり、骨格も逞しくなる薬のようなものだ、あるわけがない。
デルマーノは、ニコリ、と笑って続けた。
「これ、増大するのは魔力でなく、魔力の波動です」
「波動?魔力とは違うの?」
「はい。魔力が体格なら、波動は気配や剣気といったものです」