元隷属の大魔導師 191
「最悪の場合って……まさか、デルマーノが……」
「そうね。負けて、隷属化されたって場合。ただ、吸血目的で吸血鬼の魔力の支配下に置かれてもタキシムにしかならないからね」
アリアはこの樹海に来る途中、ウルスラから吸血鬼について補足説明を受けていた。
タキシムとはアンデッドの一種で別名はナイトウォーカー。
スケルトンやゾンビーの上位種ではあるが、吸血鬼の足元にもおよばないという。
そんなことを思い出しながらも、アリアは言葉に詰まった。
「そんな……本当に、デルマーノがっ?」
「だから、その可能性も――」
カサッ……
「っ!」
進行方向から突如、風で揺られたものとは明らかに違う、人為的な草音が鳴った。
それは微かな音であったが三人の女性たちは息を呑んだ。
――カサッ……カササッ……ガサッ、ガサッ!
次第に大きくなっていくその音に警戒心を強める。
アリアとエーデルは剣を抜き、ウルスラはペンギュラムから巡礼杖へと持ち替えた。
その間にもソレは近付いてくる。
そして……、
「…………んのっ、クソガキ。引っ付くなってんだろ、歩きにきぃ――おっ、アリア……」
「デルマーノッ!」
鬱蒼とした樹海の木々の間から現れた白い上衣に黒い下衣、そしてシュナイツ宮廷魔導師のマントを羽織った青年の姿を見て、アリアは歓声にも似た声でその男の名を呼んだ。
「なんだ。ウルスラの魔力を辿ってたんだが……アリアも一緒だったのか」
「そりゃ、貴方が心配だったし……それより、その――」
アリアは愛しき魔導師の無事に顔を輝かしたが、デルマーノをよくよく観察すると一転させる。
デルマーノの背中、丁度マントに隠れるようにして、生活に支障をきたすのではないかというほど長い蒼髪の少女がしがみついていたのだ。
アリアはその少女を指差して、おそるおそると訊ねる。
「そ……その女の子は?」
「ああ、コイツは……」
――ガサリッ!
「デルマーノ様っ!シャーロット様も……そんなに先に、いかれ――て?」
「ッ!吸血鬼っ!」
デルマーノの背後の茂みからこの樹海にはあまりにも似つかわしくない侍女服姿のエルフを目にしたアリアは一度、下げていた剣を構え直した。
エーデルも同様に警戒する。
しかし、ウルスラだけは臨戦態勢をとらなかった。
女エクソシストはデルマーノを面白そうに見つめると言う。
「隷属種ってことは……この幼女が、真血種ってことよね。でも、どう見てもデルマーノが隷属化されたって風には、ねぇ?」
にやにやとして言ったウルスラにデルマーノは小さな舌打ちで答えた。
明らかに何があったか分かっている、という顔だったからである。
そして、ウルスラの言葉でアリアやエーデルも事情をおおよそだったが、悟った。
エーデルは耳まで真っ赤に染め、バツの悪そうに剣を鞘に納めた。
しかし、アリアも同じく剣を仕舞い、紅潮しながらもデルマーノに詰め寄る。
「…………デルマーノ。どういう、こと?」