元隷属の大魔導師 190
ヘルシオの班にはフローラと第二王女付き近衛隊長メルシー、そして騎士隊の中から数名の腕利きが加わっていた。
一方、ウルスラの班にはアリアとエーデルしかいない。
危険性は増すが少人数の方が機動力があるし、見つかりにくいはずだからだ。
定期的にダウジングを続けるウルスラを先頭にアリアとエーデルは並んで辺りを警戒していた。
「………………う〜ん?」
ウルスラはカタカタと揺れるペンギュラムから目を離すと首を傾げる。
アリアは不思議に思い、訊ねた。
「あの……ウルスラさん?なにか、問題でも?」
「ごめん。遭難しちゃった」
「っ!」
ウルスラの茶目っ気のあるウインクと共に告げられた言葉にアリアとエーデルは青くなった。
「ウ、ウルスラさんっ?遭難ってっ?」
「アリアさん、お、落ち着いてっ!まず、そう……ウルスラ殿に責任を取っていただいて――」
「きゃあっ!ちょ、やめっ……エーデルさん、柄に手をかけないでっ。うそ、うそだからっ!」
未開の樹海である。
そこで遭難したと言われたのだ、混乱の極みに達したエーデルは剣を抜こうとした。
そんな近衛隊長をウルスラは必死に宥める。
アリアの説得もあり、ようやくエーデルは腰の剣から手を離した。
「はぁ〜っ、はぁ〜っ」と修道服の上から胸を抑えるウルスラ。
一度、手合わせしたこともあり、この女騎士が相当の使い手であることを知っているのだ。
「ったく……貴族さまったら冗談一つも通じないんだから。私がダウジングしているんだから遭難するわけがないでしょ?」
「なら……なにを?」
唇を尖らせるウルスラにアリアは再び、聞き返した。
「それがねぇ……真血種が動いているのよ。少し前からさ」
「動く?真血種が?」
ウルスラの話しでは吸血鬼の中でも隷属種だけではなく、高い能力の真血種も日中の行動が可能だというのだ。
そして、ジルと名乗る隷属種が言っていた真血種、シャーロットは『最恐』のグレイニル伯の血族らしい。
時刻はいまだ、昼を少し過ぎた辺りだったが、その真血種が行動をしていても不思議ではない。
……という内容のことをウルスラ自身から聞いていたアリアはこの王女にして修道女である少女の戸惑いが理解できなかった。
「……それが問題なので?」
「まぁ、ね。それがデルマーノの魔力もダウジングしているんだけど……」
ウルスラはそう言うとシャラン、とペンギュラムを軽く振った。
昼前からデルマーノの魔力が下がったり、かと思えば急激に上がったりしているらしい。
ウルスラからデルマーノの魔力が減っていると聞いたときにはアリアは青くなったものだ。
すぐに急激な上昇を見せたので安心したが。
「デルマーノの魔力が……どうかしたのですか?」
「それがさぁ……真血種の魔力とデルマーノの魔力の方向が一緒なのよね」
「……えっ、と……つまり?」
「デルマーノと真血種が一緒に行動してるってこと。こりゃ、最悪の場合も予定しなきゃね」