元隷属の大魔導師 18
よく見るとデルマーノの顔に隈が出来ていた。
「ふんっ……アンタ、分かってんの?これから私の家来になるのよ。礼儀正しく、上品にして貰わなくちゃね。まぁ、奴隷上がりには無理かしら?」
とことん、エリーゼとデルマーノは反りが合わないようである。
「ヒッヒッ…そりゃ、どうかなぁ?」
デルマーノはにやぁと口の端を歪めた。
そんなデルマーノをノークは杖で小突き、叱る。
「馬鹿者が……では、繋げるとしようかの?」
一通り、叱り終わるとノークは鏡の前に立ち、呪文を詠唱をし始めた。
「……デルマーノは荷物ないの?」
アリアはデルマーノにコッソリと聞いてみる。
別にエリーゼに聴かれてマズい訳ではないのだが、何となくはばかられた。
「んぁ?……俺は後片付けしてからアルゴで向かうんだよ。面倒臭ぇ事、この上ねぇがな…」
デルマーノは欠伸混じりに答える。
昨日より明らかに覇気がない。昨晩から相当、根をつめて作業に取り組んだのだろう。
「悪いわね、頑張らせちゃったみたいで……平気?」
「けっ………王宮に行って挨拶すんだけだ。楽勝よ…」
その挨拶が結構、精神に負荷をかけるのだが、アリアが言葉にする前にノークの呪文が完成した。
鏡は不定期に青白い光を発する。
「……さて、では行こうかの?…デルマーノ。まぁ、お前には言う必要はないだろうが……ちゃんと結界を張って来るようにな」
「へぇ〜い……王宮に着いたら、俺ゃどうすんだ?」
「事前に儂が門番にでも言っとこう…」
そう言うとノークは自分の荷物を持って鏡の中に入っていった。
次にエリーゼが、そしてレベッカが入っていく。
「じゃあ、先に行ってるから…」
二度ほど振り返り、アリアは行った。
デルマーノは鏡の周囲を見渡し、忘れ物が無いか確認する。
ノークや女共の物であれば別に良いが、レベッカに持たせた自分の荷物を万が一にでも置いて行ってしまったら非常に困る。
そんな思いもあり、疲労困憊な我が身に鞭を打ち、入念に確認した。
「……全部、持ってたな。後は……はぁ…ちゃっちゃと終わらすかね」
時間停止の魔導結界を張るという重労働を思い、溜め息を吐く。腰の小袋から焼き菓子を取り出し口に放り込んだ。
一方、ディーネ郊外に建てられたノーク宅へ無事、移動できた三人は…
「けほっけほっ……すごい埃ね」
「すまんの。まぁ、出て行ったのが二十年も前じゃからな。仕方なかろうて。時間停止の結界が張ってあるから老朽化はしておらんじゃろうが…」
埃が降り積もった小部屋。
塔にあった物とほぼ同じ大きさの鏡があるだけである。
レベッカが窓を開けるとノークは杖を振った。
ヒュオオォォ…
すると一陣の風が部屋中を駆け抜け、窓の外へ消えていく。
後には塵一つ残っていなかった。
部屋の埃を取り除くと成る程、床板が腐っていたり、壁が崩れていたりする事はない。