元隷属の大魔導師 17
「…っ……え?」
頬に突然、感じた熱に驚くアリア。
「まだ泣くなら、次は唇を奪うぞ」
「デ、デルマーノ?……えっ…と……」
「さっきの綺麗事じゃあねぇがな。カルタラの奴等の態度にゃ、ムカついてる。だからといって貴族やら王族連中だけの所為じゃねぇんだ。アリア、お前が責任を感じる必要はねぇ。分かるな?」
「……でも、」
「分かるな?」
「…うん」
アリアはデルマーノの言いたい事が分かった。一貴族であるアリアがいくら責任を感じようが事態は変わらない。ならば、端っから責任を感じるな、と言うことだ。
しかし、このままで良いとはアリアには思えなかった。
「ヒッヒッ……やっぱりテメェは面白い」
「……え?」
湯で涙を流しているアリアにデルマーノは言う。
「今まで会った騎士だぁ、貴族だぁ名乗る連中にはお前みたいのはいなかった。奴隷どころか領民すら家畜としか見てねぇ奴もいる。アリア、俺はお前が気に入った…」
「んっ……」
気付けばすぐ隣にデルマーノがいた。今まで男性と付き合った事もないアリアには耳元で囁かれるその台詞は刺激的すぎる。何か言おうと口を開けるが、脳が働かず言葉が出てこなかった。
ザァバァァ……
「あんま長く浸かるとそのデケェのがふやけんぜ?イッヒッヒッ……」
脱衣所へ向かうデルマーノのその下品な言葉はアリアには聞こえていない。
(お前が気に入った……えっと…好き?……っ!違う違う…そんな意味じゃなくて…そう騎士として……騎士として、気に入った……でも…雰囲気的には………)
アリアは一人、悶々と湯に口元まで浸かった。
頭がクラクラする。
「…アリア、いる?……きゃあ、アリア!大丈夫?アリアッ!」
少し後に来たエリーゼが見つけるまでアリアは湯船でのぼせているのであった。
翌朝……
アリアとエリーゼは塔の最上階付近の広間にいた。朝食の席で荷物を持ち、ここへ来るようノークに言われたのだ。
「ここで、良いのよね?」
「……恐らく。神と悪魔の壁画…のある部屋、ですし……」
広間の両壁にはそれぞれ神と天使、三体の悪魔が描かれていた。これは教会の発行する創世記の一場面をモチーフにしているのだろう。
後はアリアとエリーゼが並んでも、まだ余りある大きな鏡が部屋の中央にあるだけだ。
しばらく待つと、階下から鞄を抱えたノークとレベッカ、そして手ぶらのデルマーノが現れた。
「いや…すまん。準備に手間取っての」
ノークはそう言うと鏡の前にドサッと鞄を置く。レベッカもそれに倣った。
「……ノーク殿、ここは一体?」
「む?…ああ、ここは転送室じゃよ。その鏡から事前に契約した鏡に空間を接続して、移動できるんじゃ。今回はディーネにある屋敷じゃな」
「そんな便利な物あるなら昨日、使えばよかったのに……」
エリーゼの呟きにデルマーノが反論する。
「けっ……その顔の両側に付いてんのはビスケットか?転送魔導の準備には時間がかかんだよ。手間取ったて言っただろーが」