元隷属の大魔導師 157
シャーロットはデルマーノの問いには即答せず、椅子から立ち上がるとデルマーノの寝かされたベッドの右脇の縁へと腰を掛けた。
ジルも主に随伴し、シャーロットの左隣に立つ。
ズイッとデルマーノの顔を覗き込むとシャーロットは口を開いた。
「ねぇ、お兄ちゃん……なんでだと思う?」
デルマーノとシャーロットの顔の距離はそれこそ、デルマーノが少し顔を上げれば接吻できてしまう程近かった。
己の視界を覆い隠すシャーロットの蒼く、長い髪の隙間から窺えたジルの不愉快そうな視線にデルマーノは眼で「俺の方が不愉快だ」と返す。
だからといって、ジルがデルマーノに気を許す気配は当然ながらなかった。
デルマーノは小さな笑みを浮かべ、シャーロットに答えた。
「俺に、利用価値があったからか?」
「ん〜〜っ……半分、正解」
「……残りの半分は?」
「決まっているじゃん――」
シャーロットはニコリと無邪気に微笑むとデルマーノの両頬をそれぞれ、左右の手で抑えると頭を落とした。
下にはデルマーノがおり、当たり前のように唇が重なり合わせる。
――ちゅ
それは触れる程度のキスであったがデルマーノを困惑させるには十二分であった。
「んなっ」
「好きになっちゃったからだよ?私が、お兄ちゃんをさ」
シャーロットはそう言うと人差し指で己の唇をなぞった。
デルマーノは彼にしては珍しい、当惑した表情を浮かべる。
そんな彼の様子が可笑しかったのか、シャーロットは腹の底から笑い声を上げた。
「あはっ……ね、お兄ちゃん――私とセックスしよ?」
「ああっ?ナニ言ってやがるんだ、クソガキがァ。お生憎、俺にゃ少女趣味はねぇっ!」
デルマーノは眉間に皺を寄せて、拒否した。
しかし、すぐ間近に接近したシャーロットの顔は娼婦のような艶やかさがある。
そんな彼女の様子はデルマーノへ多大な説得力を持っていた。
デルマーノの背中に冷たいモノが走る。
「ちっ……お、おいっ!そこの――ジルだったか?いいのか?お前の主が人間とまぐわおうとしているんだぞっ?」
「……仕方ないでしょう」
「おいコラッ!散々、敵意の視線を送り続けてたヤツがなんでんな、物分かりが良いんだっ?」
目を伏せ、渋々といった様子だったが主の恥行を容認する侍女服姿の隷属種にデルマーノは噛みつくように怒鳴った。
しかし、ジルはそんなモノはどこ吹く風とばかりに無視する。
「くっそ……」
「んもぅ……こんなピチピチの女の子のデキるっていうのに、なんで嫌がるのかなぁ?こうなっちゃったのだってお兄ちゃんにも責任があるだし……」
「責任……だと?」
デルマーノはシャーロットの意味深な台詞に脳を猛回転させたが理解できない。
「そだよ。だって、お兄ちゃんがその――ジルが連れてくるハズだった男の子、まぁ、もう興味はないけど――彼を庇ったじゃん。だからだよ」
「あん?意味が分かんねェよ!お前らの目当てだったガキは餌じゃねぇのか?」
「う〜ん。まぁ、そう言っちゃ、そうなんだけどさぁ……」