元隷属の大魔導師 150
ソレの破壊力を見たシャーロットは一発目を『魔力反転』で押し返した過去の自分に賞賛を送った。
「あらら、避けられちまったよ」
奇襲に失敗した今、姿を隠す意味を見いだせないのか『不可視』を解いたデルマーノは喉の奥で笑いながら言った。
シャーロットはそんな男をキッと睨んだ。
「さっきからっ……お兄ちゃん、やってる事が無茶苦茶っ!これじゃ、まるで……六大魔導級を相手しているみたいじゃない」
「イヒヒッ……そりゃ、半分正解ってとこだな。まぁ、嬢ちゃんも薄々、気付いているようだから種明かしをしてやろう」
デルマーノは地の悪さが滲み出た笑みを浮かべ、天井を指差した。
一瞬、視線の誘導かと疑ったシャーロットだったがやはり気になってしまい、目の前の魔導師を視界に収めながらも上を見る。
そこには石造りの天井と魔導照明しかなかった。
「…………ん〜〜、分かんないよ」
「天井じゃなくて更にその上……嬢ちゃんほどの魔導師なら感じねぇか?」
シャーロットの気質上、そんなに煽てられたら頑張って感知するしかなかい。
すると、なるほど――あまりにも広範囲だったために気が付かなかったが、上方から魔力が降り注いでいた。
これほどの広範囲に一定量の魔力を注ぎ続ける魔法など一つしかない。
「くっ――空中結界魔導陣?」
「正〜解。んでもってコイツは俺の魔導簡略化と六大魔導、白琥珀の指定範囲内照射の複式結界だ」
「ああ、それで……六大魔導が半分正解なんだ?」
シャーロットは微かに感じられる魔力の波動に目を細めた。
「ああ。で、俺がなんで敵であるお前にこの結界の事を話したか、分かるな?」
距離にして十歩、完全に攻撃魔法の間合いの中に吸血鬼の少女を収めたデルマーノはいつでも攻撃出来るよう、警戒を緩めずに尋ねた。
「うん。お前じゃ、俺には勝てない。素直に手を退け……って事でしょ?」
「当たり。それで、どうする?個人的には面倒くさいのは嫌いなんだがな……」
そう言って「ヒヒッ……」と笑うデルマーノにシャーロットも笑顔で答えた。
「イ〜ヤ♪だって、私もお腹が空いちゃって仕方がないんだもん。それに――なんの結界か知らないけど、コレって未完成なんでしょ?」
「……あぁ?」
「あははっ、図星だ。この結界は複式なのに、二つの式しか組み込まれてないじゃん。そりゃ……二つでも合わせれる事自体が凄いんだけどさ」
少女らしい屈託のない笑みを浮かべるシャーロットをデルマーノは不快そうにねめつけた。
「けっ……ご解説、ど〜も。確かに未完成の魔法だ。本当はコイツに更に二つの式を入れてぇ。でもな、コレでも十分――強ぇんだ。嬢ちゃんを倒すくらいにはな」
「なら……試してみるっ?」
シャーロットは戦斧を振り上げると無詠唱で周囲に五つの黒い球体を生み出した。
彼女が戦斧を振り下ろすと同時に球体はデルマーノへと一直線に飛んでいった。
ュ、ゥッ!
デルマーノへ当たると吸い込まれるように球体は消失した。
しかし、次の瞬間――