元隷属の大魔導師 149
戦闘槍を下段に構えたデルマーノは「イヒッ」と歯を剥き出した。
「……そりゃ、宮中じゃニャーッと猫を被るもんよ。捕まりゃしねぇよ」
「ぷっ、あははっ……お兄ちゃんって面白いね。殺すのが勿体無いよ?」
「んなら、見逃してくれよ」
「じゃあ、私のご飯を頂戴。お兄ちゃん達が匿っているんでしょ?」
「そりゃ、できねぇ相談だな」
「だったら、私も見逃せないなぁ……」
「はっ!……そうかよっ!」
デルマーノは戦闘槍で空を突いた。
直後、刃から圧縮された冷気の波動がシャーロットへと放たれる。
ヲオォッ!
それは昨晩、デルマーノがジルを追い込んだ『氷狼の遠吠え』という、冷気圧縮魔法であった。
しかし、昨晩より攻撃範囲が狭く、代わりに高密度で圧縮された冷気の刃は圧倒的な破壊力を秘めている。
これがデルマーノが『氷狼の遠吠え』と呼ぶ魔法の完成型なのだ。
「ぅっ」
シャーロットは瞬時にその魔法の危険性に気付いたが猛スピードで迫ってくるソレを避ける選択肢はすでになく、仕方なく戦斧で迎え撃った。
ッギャアァァ……
戦斧の刃と圧縮された冷気は火花を散らし、せめぎ合う。
だが、最終的にはシャーロットが打ち勝った。
「くっ、これまでか…体が凍って動けない」
シャーロットに首から下を氷漬けにされてデルマーノは身動きが取れなかった。
「お兄ちゃん、ねえ〜私のご飯どこにあるか教えれば助けてあげるよ。」
氷漬けにしたデルマーノにシャーロットは取引を持ちかける。
このまま彼を殺しても餌を得るのは手間が掛るからである。
「わ、分かった。教えてやる……」
「んふふ〜……素直でよろしい」
シャーロットは満足げに、にんまりと笑うデルマーノに背を向けた。
彼女にとってこれほど簡単に交渉が受け入れられたのは僥倖である。
冷気圧縮魔法に対し、シャーロットは戦斧で押し返すと共に『魔力反転』という闇魔導で対抗したのだが、ソレはそう何度も使える手でも魔力消費量でもないのだ。
「で?どこ――」
表面だけでも尊大に振る舞おうと呼吸を整え、余裕を取り戻したシャーロットは再び、デルマーノへと振り返った。
しかし、ソコにデルマーノはいない。
「ま、またっ?」
勝利を間近にし、油断した己に歯噛みしながらもシャーロットは索敵する。
だが、今回は彼女が『解除』を唱える前にデルマーノが仕掛けた。
ヲォ、ッォ、オオヲォォッ!
「三連射っ?」
シャーロットは目を剥きながらも素早く、左へ横っ飛びをして回避した。
先程まで自分が立っていた場所を冷たい波動が高速で通過していき、壁に直撃した。
石造りの壁は紙を裂くように三つの裂傷を屋外が見えるように残す。
「…………う、ゎぁ」
爆裂や粉砕の類ではなく、一点に全ての威力を集中させた断裂魔法の極致。