元隷属の大魔導師 148
しかし、まるで母の呪いのような特異体質を持って産まれた為、父や兄弟達からは不遇の扱いを受けたのは良い気持ちではなかった。
それも父を殺そうと思った動機の一つだったのかもしれない。
そういう訳で家族の愛などというモノに縁のなかった自分はワザと幼げな喋り方をしていた。
……まぁ、体型も少女のままここ三十年程、成長する気配はないし、正直なところ、この口調は性に合っているので直すつもりはない。
それよりも自分はこれからどこに座れば良いのだろう。
つい、流されて巷の歌劇などの悪役を真似、椅子を壊してしまった。
しかし、これも元はと言えば悪戦苦闘しながらも作り上げた隷属種の四人が昨晩、マーキングした餌とやらを連れて帰らず、腹を空かしている所へ侵入してきた見知らぬ男がいけないのだ。
よしっ、ジルが帰ってきたら少し意地悪をして、その後に新しい椅子を用意してもらおう。今度は柔らかいのが良い。
そう思って一人頷くと振り向き、宮廷魔導師だったという男の死体へシャーロットは視線をやった。
「…………あれ?」
シャーロットは何度か目を瞬かせる。
先程、自分が手に持つ戦斧で真っ二つにしてやった男の死体がどこにもないのだ。
あるのは粉々になった氷の結晶だけである。
「??…………ッ!」
シャーロットは脳に直接、風を当てたような悪寒を感じ、咄嗟に後方へ可能な限りの跳躍をした。
――――カンッカカカッ!
距離にして十歩程だろう、部屋の出入り口とは反対側の端まで跳んだシャーロットが顔を上げると今まで自分がいた場所には煌めく四本の大きな棘が刺さっていた。
シャーロットの脚程もある棘はよく見ると氷で出来ている。
「……なにっ?」
「イヒッ……イッヒャッヒャッヒャッ!俺を倒した気でいたようだがな、残念でしたぁ……っ!」
「っ?――んっ!」
ヒュッ!
高く細い風切り音を耳にしたシャーロットは反射的に戦斧の刃を音のした方向へと向けた。
瞬間、右腕に痺れが走る。
怪力を有する吸血鬼の腕に、だ。
未だに腕へ負荷を感じるシャーロットは力の元へと目を向けた。
そこには何の影をなかったが彼女には正体が分かっていた。
「不可視ね………………鎖よ、解けっ!」
シャーロットは対抗するため、呪文を紡ぐ。
その声に呼応するように戦斧の柄の真ん中程に填められた蒼い宝石が発光した。
『解除』の魔法の効果で『不可視』で隠された相手の姿が現れる。
やはり、と言うべきが宮廷魔導師だという男、デルマーノが品が良いとは言えない笑みを浮かべていた。
「ほう……魔導師、しかも昨日の隷属種とは格が違うなぁ」
「お兄ちゃんこそ、さっきのは凄かったよ。何の魔法?」
「イッヒッヒッ……ヒミツ」
「ふ〜ん、イジワル……でも、お兄ちゃんって本当に宮廷の人なの?」
「あぁ?」
「そんな顔してよく捕まらないねっ!」
シャーロットはそこまで言うとデルマーノの戦闘槍を押し返した。
人間のデルマーノが抑えるにはあまりにも強力だった。
堪まらず、跳び下がって距離を取る。