元隷属の大魔導師 138
鼻歌でも歌いそうな機嫌の良さで髪の毛を布地に再び、包むと腰布にしまった。
何が彼女をそんなに嬉しくさせたのか、アリアには分からないが、サグレスに何かしらしたのだろう。
ウルスラは歯を見せて微笑み、「そんな事よりぃ〜〜」と続けた。
「アリアさんは何をそんなに落ち込んでるのよ?」
「………………お、落ち込んなどは……」
「い〜えっ、落ち込んでたわ。こちとら毎日、説教する身よ?隠し事なんて無意味ね」
指を突きつけ、そう断言するウルスラにアリアはタジタジとデルマーノの奇行が理解出来ない事を話し始めた。
「こんな事……本当はあまり口外すべきことではないんでしょうが………」
「――――という事が……私は、デルマーノが………何をしたいのか……」
「……ぷっ!くふっ………ふふっ、あっはははっ……」
目を伏して語ったアリアにウルスラは爆笑で応えた。
アリアは唖然となって首を傾げる。
「あ、あの………」
「くくっ……いやぁ、ごめんなさいね?あの人間嫌いの奴隷野郎がマジでアリアさんに惚れてるんだな、って……んっ、くはっ」
そこまで言ってウルスラは再度、笑い出す。
流石に失礼だと思ったのか掌で口を抑えていた。
アリアは怪訝な表情で尋ねる。
「それは一体……どういう事ですか?」
「ん?……ああ。だって、アイツ………自分で汚れ役を買ったのよ?」
「………はい?」
まだ、事情を飲み込めないアリアにウルスラは少々、苛立たし気に説明した。
「だっかっらっ!デルマーノはきっと誰かが提案する――いいえ、誰もが考えてしまうであろう愚策を先に言う事で他の人間がその策を思い付かないように手を打ったのよ」
「………………」
アリアはウルスラの言わんとする事を考える。
「……………………あっ……分かっちゃった……」
ハッとなり、両手を打ち合わせたアリアは続けた。
「―――つまり、デルマーノは先回りして他人が思い付いても自己嫌悪に陥らないようにしたんですね?例えば私がサグレス様を殺す、と考えたとしてもデルマーノが先に言っていたら私が思い付いたんじゃなく、デルマーノの策を考えている……ってふうに………」
「そうそうっ。分かってきたじゃないの」
そう言うとウルスラは声を上げて笑う。
「でも、言ったのはアリアさんにだけ―――ああっ、エーデル隊長さんにもだったけ?……まぁ、アリアさんに言ったのは確かでしょ?」
「……はい」
少し考えてからアリアは答えた。
「ふふっ……そういうコトよっ」
「…………〜〜〜っ、はい」
年相応の娘らしい朗らかな笑みを浮かべ、アリアの肩を叩くウルスラ。
アリアは耳まで赤くし、俯きながらも小さく頷くしかなかった。
「どんなに悪役になっても自分を守ってくれた。ああ……自分はこれほどまでにデルマーノに愛されているのだ」とアリアは恥ずかしくも感激したのだ。
―――そして、決心する。
だからこそ、アリア自身も戦おうと。
デルマーノは『騎士』である自分に惚れたと言っていた。