元隷属の大魔導師 137
フローラは数回、瞬きをすると表情を一変させ、頷く。
そして、「ごめん、ちょっと……出てくるっ」と言い残し、フローラは食堂を出て行った。
「………………アリア?」
「………………アリアさん?」
残されたエリーゼやエーデルは満足そうに微笑むアリアに揃って内なる疑問を尋ねた。
「もしかして、あの二人は―――」「お付き合いしてるのでしょうか?」
「へ?……え〜〜っ…………っと………そういう事になりますか、ね……」
「「っ?」」
アリアの言葉を受け、混乱したように顔を見合わせる王女とその近衛隊長。
その二人の態度に首を傾げたアリアだったが間も置かず理由に思い当たった。
(ああ………この二人の共通点、分かっちゃった……恋愛に疎いんだ……)
故にフローラとヘルシオが突然、くっついたように感じられたのだろう。
一回りも歳が離れた主従の小さな相似に思わずクスッと笑みを漏らしてしまったアリア。
そんな彼女に憮然とした二人の視線が注がれる。
「「………………」」
「…………〜〜〜っ!で、では私も迎撃の用意してきますのでっ。失礼っ!」
上司二人の非難の視線に堪えられず、アリアは食堂から逃げ出した。
宿を最上階まで上り、その広い廊下を歩くとバルコニーへと出た。
そこからは三本の塔に囲まれたベルトコルタ城と煉瓦造りの城下町、遠方には昨日、赴いたアルトービーチが海と陸とを白い境界線で分けていた。
「………………」
視線を地面へと向けるとヘルシオがフローラに見守られ、地面に幾何学的な文字列を書き連ねている。
二人の様子から察するにフローラはヘルシオを上手く、励ませたようだ。
「………………」
一度、目を瞑るとアリアは首には下げているものの、宝石部分はシャツの中に仕舞っていたネックレスを取り出した。
種類は分からないが台座に収まった小さな透明の石がワータナーの強烈な日差しを屈折させている。
「…………はぁ……」
アリアは肺から絞り出すように溜め息を吐いた。
昨晩、デルマーノは吸血鬼との戦闘を回避するためにサグレスを見捨てる策を口にした。
しかし、翌朝にはソレとは真逆の真血種との戦闘準備を始めている。
朝食の席でのエーデルではないがデルマーノの言動が不可解で、まるで靄でもかかったようにスッキリとしないのだ。
「…………はぁ……」
「―――昼間っから黄昏てるわねぇ〜〜」
「ひゃっ?」
突如、掛けられた声にアリアはビクッと肩を跳ね上げ、自分が今、立っているバルコニーから宿内へと振り返る。
そこには銀髪の修道女がからかうように己を見つめていた。
「ウ、ウルスラ……さん?」
「はぁい」
ヒラヒラと手を振って答えるウルスラ。
この少女の登場は毎度、心臓に悪い。
「………サグレス様のところへ行ったのでは?」
「ええ…………ホラ?」
ウルスラは手に持った布地を手の平の上で広げた。
アリアが覗くとそれは薄い黄色の髪の毛であった。
「これは……サグレス様の?」
「そっ。ちょっと必要でね」