元隷属の大魔導師 133
アリアやフローラはもちろん、話しを静観していただけの近衛騎士たちも驚愕に口を揃えた。
「??……アリア、カスタモーセって誰?」
「ひ、姫様っ?ご存知ないのですか?」
「?………うん」
第一王女エリーゼや第二王女ミルダは他の者たちが何故、そんなに驚いているのか分からないのだろう、首を傾げていた。
「…………ア、アリア。私、思うんだけどね……エリーゼ様もミルダ様も街の吟遊詩人の詩なんかはお聞きにならないんじゃ……」
コソリ、とフローラに耳打ちされたアリアは「ああ」と頷いた。
「あの……姫様?エクソシスト、カスタモーセはその、酒場とかで吟遊詩人らが語る物語の登場人物でして……」
「物語?―――ってことは空想の人物なんじゃないの?」
「はい、私も………いえ、ここにいる者は皆、そう考えていたんですが……」
「実在するのよねぇ……しかも、この島にさ。ふふっ」
割って入ったウルスラが楽しそうに微笑んだ。
そんな彼女の様子を見て、エリーゼは、はっ、と閃いたように叫んだ。
「そ、そんな伝説的な方がいるならっ……」
「ですから、エリーゼ姫。神父様は現在、戦える状態ではないんですよ」
「ぁ、ぅ………」
ウルスラの台詞にエリーゼは口を開けたまま、言葉を止めてしまう。
「で、どこまで話したかしら?………ああ、私がエクソシストってとこまでね。それで、もう一度だけ言うけど私は吸血鬼の上位種、真血種には勝てない。神父様も戦闘にご参加出来ないわ。そこで、デルマーノは自分で真血種を倒すことにしたらしいのよ」
「ウ、ウルスラさんっ?でも、デルマーノも真血種には勝てないって………」
「…………それは、いつ?」
首を傾げ、その銀髪をなびかせたウルスラの問いにアリアは一瞬、間を置いて答えた。
「………………一昨日の、昼前でした」
「ふ〜〜ん……それで?なんて言ってたの?」
「………自分は真血種には勝てない。勝てるのはノーク師ぐらいだ、と……」
「確かに、ノークさんだったら神父様と同じ位、強力な魔導師だからね。くふふっ!それで、アイツは………」
ウルスラは一人、勝手に納得したようにコロコロと笑うと立ち上がった。
「?……あの」
「解散よ、か、い、さ、ん。こんなトコでいつまでも頭を突き合わせていたって仕方ないでしょ?ああ、そこの貴女―――その吸血鬼に襲われたっていう生徒の所へ案内して」
アリアの問い掛けに指を振って答えるとウルスラは直ぐ近くに座っていた第二王女付き近衛隊々長メルシー・アイントレックにサグレスの元へと案内するよう命令する。
王位継承権第二十二位だとしても王女からのソレにメルシーは畏まって従い、ウルスラに先行して退室した。
それを合図に集まった一同は席を立つとそれぞれ、移動を開始する。
殆どの者達が食堂から出て行く中でフローラ、ヘルシオ、エリーゼ、エーデルは残り、同じく残っているアリアの元へ集まった。
彼女達の視線はアリア宛てのデルマーノの手紙へと注がれている。