元隷属の大魔導師 132
「事情?」
「はい。手紙にもそう書いてありましたし……」
「うぇ〜〜っ、面倒くさっ!」
ウルスラはテーブルに肘を付き、両手で顔を支えると溜め息混じりに言い捨てた。
しかし、アリアの困惑した視線に堪えきれず、渋々と続ける。
「はぁ……どっから、話そ。んん〜〜っ…………まずは私がここに来た理由ね。当たり前だけど、ただの使いっぱしりじゃないわよ?私の師匠――ほら、アリアさんが昨晩、会った神父様なんだけど――実はエクソシストなのよ」
「……………はい?」
アリアを含め、その場にいた者たちは目を点にした。
ウルスラはその反応を心得たように喉の奥で笑う。
「くっくっ………エ、ク、ソ、シ、ス、ト。教会の対魔戦士のことね?まぁ、知ってるとは思うけど……」
エクソシスト。
神に仕え、魔法とは別の形態の奇跡を起こし、魔物を退治する神官の名称である。しかし、市井の噂話しや吟遊詩人の詩にたびたび、登場するその者たちの実態は限りなく謎めいており、実際に目にしたという者は多くはなかった。
「エクソシストって………この、エクソシスト?」
エリーゼは右手の人差し指で聖印を切り、最後に打ち放つ真似をする。
「ふふっ……そうですよ〜、エリーゼ姫。今のはペルティ=アノっていう浄化術なんだけどね」
同じ王女同士、敬意を払う必要はないのだろうが、ウルスラの口調にアリアは少々、違和感を覚えた。
見下したり、侮蔑しているわけではないのだが、どうにも年下に話しをするような口調に聞こえてしまうのだ。
「んま、つまりは私もエクソシストなのよ。そして、こっからが本題。吸血鬼への対抗戦力として私がここに送られたんだけど……正直な話し、私じゃあ真血種の相手はちょっと、キツイのよねぇ。隷属種なら楽勝なんだけど……」
「なっ?………じゃあ、どうするのよっ?その――真血種ってのが来たらどうやって対抗すればいいのっ?」
エリーゼは大きな目を更に大きくさせ、狼狽する。
一同の中である程度、吸血鬼について知識を有している者、即ちワータナー行きの船内でヘルシオとデルマーノの講義を聞いたアリアとフローラもエリーゼと同じく、顔を青くさせた。
あのデルマーノが手放しに勝てないと宣言した相手にどう対処すれば良いのか、想像もつかないのだ。
「………っ!そ、そうだ。そのウルスラさんの師匠の神父様は当てにならないんですか?」
フローラが弾けたように叫ぶとウルスラに尋ねた。
「神父様?あの方には残念ながら助力を乞うことは出来ないわ。ご病気で足は不自由ですし、目だって、もう殆ど見えないんだもの……」
「う、うぅぅ………」
フローラは口を噤んだ。
流石にそのような老齢の者を戦場に立たせるわけにはいかない。
「昔は凄かったんだけどね。七星のエクソシストに数えられるくらいにさ」
「??七星の………?」
「教会の対魔戦団最高位の戦士、七人のことよ。エクソシスト、カスタモーセって聞いたことない?」
「「……………ぇええっ?」」