元隷属の大魔導師 134
「な、なんでしょうか?」
アリアはその八つの眼に怯え、手紙を持った右腕を背中へと回し、彼女達の視界から隠す。
「ア〜リ〜ア〜ッ!見せなさいよ、開きなさいよ、読みなさいよっ!」
フローラは、ジリ……、とアリアへ一歩、距離を詰めた。
「………私宛ての手紙なんだけど……」
「さ、さっきっ!ウルスラ殿も言ってたでしょ?内容を知られてもいい人ならって!」
ズイッ、とエリーゼはアリアの背後に回り込もうと右へ二歩、流れるように移動した。
「ですが、姫様……私も中身はまだ、知らないんですが……」
「きっと先程、読み上げたような文面ですよ。私だって恥ずかしいながらも朗読したのですよ?さあっ」
彼にしては珍しく、スバッとモノを言うヘルシオは左掌を差し出し、アリアに己を倣うよう、説得する。
「ヘ、ヘルシオ君っ?だって、今度は素のデルマーノなのよ?さっきとは……」
「アリアさん。安心して下さい。少なくとも私は口が硬いです。なので、封を切りませんか?でないと私……アリアさんに隊長命令をしなければならなくなります」
エーデルは食堂の出口方面へと体重を密かに傾かせたアリアの行く先にスッと割り込んだ。
「隊長まで………なんで、そんなに気になるのですか?」
そう言ったアリアも理由は分かっていた。
こんな事態の中、『あの』デルマーノからの手紙なのだ、もし他の誰か宛てであったのならばアリアだってなんとしても読みたい。
「…………」
「「…………」」
「…………うぅ……分かりました。読みます―――読みますからっ」
アリアは渋々と背中に回していた腕を前に戻した。
手に持った手紙を食堂のテーブルの上へと置く。
一同の好奇の視線に晒されながらも、アリアは蝋で閉じられ封を剥がした。
「…………よ、読みます」
三枚綴りの文面に目を落としたアリアの耳に誰のモノだろう、息を飲む音が聞こえた。
「『コレを読むであろう唯一無二の我が伴侶へ』…………」
一文目から既にアリアは後悔を始めている。
思いの外、恥ずかしい。
顔が火照った。
手紙から視線を聞く者達へと移すと皆も少々、照れている。
エリーゼだけはムッと唇を尖らせていた。
「『と、その前に今のフレーズを聞き、不機嫌になった方……なら、聞かなきゃいいだろ?バー……カ』ひ、姫様っ?これはっ……その……」
己をその大きな瞳で睨んだ主君にしどろもどろとなるアリア。
「さ、ささ先程からぁ……んのクソ奴隷めぇ〜〜」
「ひ、姫様っ?下品ですよっ!」
アリアの指摘にエリーゼは、はっ、と己の吐いた言葉を思い返し、慌てて続けた。
「そ………そんな事より、続けなさいっ!」
「わ、分かりましたっ」
アリアは一枚目の残りが全て空白である事を確認すると次の紙へと目を移す。
「………『さて、ウルからはもう聞いていると思うが、今、俺はベルトコルタ城にいる。朝一にカスタモーセに相談して、諸事情から俺が真血種と戦うことにしたからだ。後、リーゼ女王陛下にも事情をはなしておいた』」