元隷属の大魔導師 130
「きゅうけ……って、わたしがっ?なに朝っぱらから寝ぼけてんのよ?わたしの服装、見てよく、そんなことほざけたわねっ!」
「寝ぼけ………ほざっ?……」
ツイッ、とその細長い人差し指を突きつけて叫ぶ修道女にエーデルは言い返す。
お嬢様のエーデルには少女の言葉は刺激が強すぎた。
「しかし、貴女はシスターではないと……」
「そうよ。わたし、シスターじゃないもの」
「なら――――」
「ウルスラ、さん?」
「「っ?」」
突然、介入した声に睨み合っていた二人は揃って発生元へ視線を送る。
そこにいたのは二人を遠巻きする生徒や騎士の最前列に立ったアリアであった。
タタラを踏んでいるところを見ると何重もの人垣をようやく、抜けて、その拍子に飛び出てしまったのだろう。
「アリアさ……」
「アリアさんっ!いやぁ〜、やっと話しの分かる人が来たわ」
自分が部下へと掛けた声を打ち消し、その部下へと親密に近付く少女の態度を見て、エーデルは訝しむ。
「……アリアさん、その方をご存知なんですか?」
「え?……は、はい。彼女はデルマーノが泊めていただいている教会の助祭で……その、この国のおうむんっ……」
アリアの続く台詞を予想したウルスラはダッと駆け出し、彼女の口を手の平で塞いだ。
「アリアさ〜ん……口が軽すぎるわよ?まぁ、最も口が軽いのはデルマーノだって話しだけどねぇ?」
ギラついた目で睨まれたアリアはその目力に気圧されたが、口を塞がれ喋れないため、コクコクと首を上下に振った。
「分かれば良いのよ、分かれば………この事は他言無用、だからね?」
「は、はい」
やっとの事で解放されたアリアは思わず、年下の修道女に敬語で答えてしまう。
「それじゃ、詳しく話しが出来る所に案内してもらえる?」
片目を瞑り、周囲に立つ好奇の視線たちを指で指し示したウルスラの指示にアリアは頷いた。
「ん〜〜、では……改めて自己紹介するわね?」
ウルスラは人払いされた食堂に集まった面々を見回し、話し始めた。
現在、この場にいるのは第一、第二王女エリーゼとミルダ、それぞれの近衛騎士から五名ずつ、そしてデルマーノの代わりに出席したヘルシオである。
当事者のサグレスは未だに情緒不安定なため、別室にて護衛されていた。
「私の名はウルスラ。ウルスラ・アウッシュ・ヘルゼ・ド・ワータナー。この国の第二十二王女よ」
「ちょっ……他言無用って………」
「そりゃ、あんなワータナー国民がいる場所で暴露されたらわたし、明日から外を歩けなくなっちゃうもの。ここにはいないでしょ?」
なるほど、ウルスラが王女である事を隠したかったのは自分たちではなく、宿の従業員の方であったのか。
「ア、アリア。どういうこと?」
この国の実情を知らないエリーゼは疑問符を浮かべ、アリアに尋ねた。
「姫様、それは………」
「説明しなくていいわ、アリアさん。エリーゼ殿下は我が姉君と仲がよろし過ぎるもの」
ウルスラはアリアの台詞を遮ると続ける。