元隷属の大魔導師 129
「だ、だから、こんな大事な時期に隊長に本性を打ち明けたんです!自信を持って下さいっ!」
「ほ、本当に……そうでしょ…」
「「本当にそうですっ!」」
「………………」
部下が口を揃えて肯定を唱えたため、エーデルは顎に手を置き首を捻った。
なんだか、本当にデルマーノに信頼されているような気がしてきたのだ。
「………そう、ですね。はい、確かに貴女たちの言う通りです。私もつまらない事にこだわり過ぎていました」
数回、頷いて納得した様子のエーデル。
そんな上司にアリアとフローラは机の下で手を打ち合わせた。
この七面倒臭い上司が平静を取り戻したところで三人の近衛騎士はサグレス護衛についての策を練ろうと食器をテーブルの端に寄せる。
デルマーノを当てにするだけなど騎士の恥だ、と思っての事だ。
しかし、その時、一人の男が食堂へと飛び込んできた。
応対に回った教師に何事が叫ぶその中年男は着ている制服からこの宿の守衛だと分かる。
現状が現状なだけに緊急事態かとエーデルはその場にいる騎士を代表して事情を聞きに近付いていった。
「守衛さん。どうかしたのですか?」
「あ、あなたは騎士ですか?頼む、止めてく……」
その後に続く台詞が吹き飛んできたナニかの悲鳴に打ち消される。
直ぐ横の床にひれ伏し、動かなくなったソレは目の前の守衛と同じ制服を身に纏っていた。
エーデルは慌てて、その男を抱き起こす。
「…………ふぅ……気絶しているだけ、ですか。良かった……」
エーデルは男の容態を見て、一先ず、安堵した。
外傷が見当たらないのは不可解だが、今はそれどころではない。
そして、自分が今、帯剣をしていないことを恨みながらも気絶した守衛の腰から剣を抜いた。
コツコツ、と廊下を踏み進む侵入者へ視線を送ったエーデルは驚愕する。
それは修道服に身を包んだ小柄な少女であった。
先に聖具をかたどった巡礼杖を手に持ち、首からはロザリオを下げた少女は正に修道女であり、侵入者が吸血鬼だと思っていたエーデルは虚を突かれたのだ。
「………………何か、御用ですか?シスター?」
眉根を寄せ、エーデルはスッとその修道女へと剣を構えると問う。
「ちっ……どいつもこいつも……わたしはシスターじゃないっつーのっ」
「ならば……敵かっ!」
「はぁ?――って、ちょっとぉ!」
修道服を着た女へとエーデルは一息で近付くと高速で六合、斬撃を放った。
カンッ…カカカカッ……カンッ!
「なっ?」
エーデルは目を見開く。
相手を本気で殺す気はなかったとはいえ、手を抜いた訳でもない。
しかし、修道女はその手に持った巡礼杖でエーデルの剣を全て防いだのだ。
使い慣れぬ得物であった事を差し引いてもこの少女は尋常ではない。
「………ぅっ!やりますね」
「やりますね、つーか……いきなり斬りかかってくるなんてどういう了見よっ!?」
「……なに?」
プリプリと怒る少女にエーデルは呆けて、聞き返した。
「貴様……吸血鬼では、ないのか?」