元隷属の大魔導師 125
コツコツ、と硬い廊下に靴音を響かせ、デルマーノは二人の近衛騎士の目の前まで歩いてきた。
「相手は吸血鬼……俺なんかよりずっと格上の魔導生物だ。んな連中と闘り合うなんざ、まともじゃねぇ。だからよ、俺ゃ出来れば一番、簡単な解決法を取りたい」
「……解決法?」
何を言いたいのか分からない、とアリアは聞き返す。
一方、エーデルは未だに目の前の粗暴な青年が今まで自分と同じ局舎で働いていた近衛魔導隊々長だと信じられないようだ。
デルマーノはそんな彼女を一瞥すると続けた。
「そう、戦わくてすむ方法……」
「戦わなくて………って、まさかっ?」
デルマーノの思惑に検討が付いたアリアは驚いて窓から漏れる月光を背負った魔導師を見つめる。
「イッヒッヒッ……そう。サグレスのバカ野郎を奴らに渡すなり殺すなりして奴らの俺達への興味をなくす」
「デ、デルマーノ隊長っ!貴方、それはっ!」
今まであまりの出来事に口を聞けなかったエーデルも流石に今度のデルマーノの台詞には反論した。
「イヒッ……イッヒッヒッ………冗談、冗談さ。今夜はもう、遅い。明日にしよう……なぁ?イッヒッヒッ!」
そう言うとデルマーノはスタスタ、と二人の間を歩き、玄関へと向かう。
「デ……デルマーノ、どこ…に?」
「ふんっ……俺は俺の寝床に戻るだけさ。アリアももう、眠れよ?」
「…………デルマーノ……」
「イヒッ……んな、目をすんなって。言ったろ?冗談さ」
こちらに背を向けたまま、ヒラヒラと手を振り、デルマーノは宿から出て行ってしまった。
「「………………」」
二人っきりの気まずい雰囲気を払うようにエーデルはアリアに声をかける。
「…………確かに……もう遅いですし、明日にしましょうか。アリアさん?」
「………………はい。では、隊長……おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
アリアは冗談と言い張るデルマーノの言葉に一抹の不安を抱えながらも自室に戻り、就寝した。
そして、翌朝…………。
「聞いたわよっ、アリアッ!サグレス様が吸けぅんん〜っ……」
物憂げな表情で朝食のサラダをつついていたアリアは食堂中に響くような大声で話し始めたフローラの口を慌てて塞いだ。
「んぐっ!ムム〜ッ……」
「フローラ、貴女………声、大きいわよ?」
「むがっ!…………アリアったらっ!もう、遅いわよ」
「?……遅いって?」
「みんな、知ってるわ。近衛も生徒も……姫様達も」
「っ!…………そう」
なるほど、気付かなかったが言われてみれば確かに食堂で朝食を取る生徒達の様子がおかしい。
アリアは誰が漏らしたのか、と苛立たし気に思案したがすぐに検討が付いた。
あの場にいた中でそのような愚行をとるのは学院の教師達だけだ。
「ところで……デルマーノさんは?」
フローラの後を二人分の朝食を乗せた盆を持ってやって来たヘルシオが尋ねた。
昨晩、訪ねた後の事を聞いているのだろう。
「デルマーノ………デルマーノ……」