元隷属の大魔導師 121
尚も反論しようするアリアをデルマーノはおもむろに抱き寄せると唇を奪った。
「っ………それにな、俺には勝利の女神がついている……なんてな」
唇を放すとデルマーノは小さく笑う。
その笑顔を見て、アリアも腹を決めた。
自分は誇り高きシュナイツ近衛騎士の一員なのだ、と。
デルマーノは身を屈ませ、十字架の影に隠れて必殺の距離まで近付いた。
スッ、と音もなく、デルマーノは戦闘槍の偽装を解く。
「………………………………ヒュッ!」
デルマーノは十字架の影から飛び出すと、吸血エルフまでの六歩程の距離を駆け抜けた。
流石はデルマーノ。
相手も彼の存在に気付いたが、すでにかわす事も防ぐ事も出来ない距離まで迫っていた。
デルマーノに続いて駆けていたアリアは勝利を確信し、息を呑む。
…………ズュッ!……
肉が断たれる嫌な音が墓地に響いたが、デルマーノは驚愕の表情で矛先を見つめていた。
回避不能と判断した吸血鬼は自らの左腕を戦闘槍の軌道上に乗せ、敢えてめり込ませる事によって威力を殺したのだ。
「………ちっ……ふっざけんな」
奇襲に失敗したデルマーノは一度、距離を取ろうと歩を下げるが槍が腕から脱げず、諦めて手を離した。
追いついたアリアを背に庇うように前屈気味に構える。
「……………何者、ですか?」
エルフは左腕を戦闘槍の一撃で見るも無残な惨状であるにも関わらず、平然と問いただしてきた。
「………俺達ゃ、ソイツの保護者だ。引き渡してくれっと助かるんだがな?」
「無理です」
「なら、取引をしよう……吸血鬼には生きにくいご時世だろ?」
アリアはデルマーノのこれ程まで弱気な態度を初めて見た。
それほど、目の前の人外は強力なのか。
「いやです…………貴方は何故、私を恐れないのですか?」
「えっ?」
アリアは自分と真逆の感想を漏らす吸血鬼の言葉に驚き、デルマーノを見やる。
デルマーノは明らかに動揺した表情をしていた。
そして―――ニヤリと口角を歪める。
「イッヒッヒッ……あらら、バレたか?」
「……………………」
おどけるデルマーノを一瞥するとエルフは無言で腕に刺さった戦闘槍を力ずくで引き抜いた。
「っ!………っ……ぅ…」
……ぐちゃっ!ぎゅギャギャ………
「ひっ………」
流石に吸血鬼でも厳しいのか苦痛に顔を歪める。
アリアもその行為を目にするだけで涙目になっていた。
「………ふぅ。邪魔は、させませんっ!」
戦闘槍の中ほどを無事な右腕で握るとエルフはぐぐっ、と引き構える。
デルマーノはその構えを見ると顔色を変え、左手の指輪を掲げた。
「…ヤベッ………氷鱗、三枚っ!」
「はぁっ!」
ピキッ……ピキキッ!……
ヒュッ!………
デルマーノの呪文により、宙に分厚い氷の盾が浮かぶのと吸血鬼が戦闘槍を放つのはほぼ、同時であった。
……ガンッ!…ガンッ!…カッ………
一枚目、二枚目の氷の盾を貫通し、三枚目の盾にヒビを入れようやく、勢いを止める。
「けっ……」