元隷属の大魔導師 117
「………つ、えぇ…」
用心棒達は全員、デルマーノとアリアに倒され、後方で隠れていたディーラーもデルマーノの槍に鳩尾を貫かれ、気絶した。
「けっ……カード捌きは一流なんだからよ、バカなことをやんなきゃ良かったんだ」
デルマーノはそう、捨て台詞を吐くと店の外へと出て行った。
残されたアリアは他の客に頭を下げ、男達が伏す惨状を見回す。
自分はこの内の三人しか倒せなかった。
やはり、デルマーノは強い。
それこそ正規剣術だけではこの差を埋める事は永遠に出来ないだろう。
ふぅ、とアリアは強く息を吐いた。
(私も……頑張らなくちゃ)
少しでも……そう、少しだけでいいからデルマーノが自分を頼ってくれるくらいには強くなろう。
腰に収めた剣を見つめ、アリアはもう一度、強く息を吐いた。
「………遅かったな?」
デルマーノは店から出てきたアリアにそう、声をかけた。
手には何の動物かも怪しい皮紙が握られている。
そこには繁華街に入る前に『探索』の魔術が示した方角と地図を参考に検討した学院生の立ちよりそうな場所が書かれていた。
「ごめんなさい………それで、どう?」
「ん?……ああ。割とヤバいかもしれねぇ」
「ヤバい?」
「ああ。今ので街中のめぼしい場所はあらかた、潰したからな。あとは………」
デルマーノは左右の人差し指で別々の方角を指差した。
「………海の方か、樹海の方だ」
「う……たしかに、それはマズいわよね。街中だったらただ、遊んでいるだけだと思えるんだけども………」
「海岸と樹海、じゃぁなぁ………まぁ、行くか?」
「えっ、と……どっちに?」
「樹海だ」
「………何故?」
「サグレスがいなくなったのは海岸だ。そこは教師連中が捜してんだろ?だったら、俺達ゃ樹海の方に行きゃいい」
「なるほど……そうね、分かったわ。行きましょう」
「おう…………………………ほれ、捕まれ」
デルマーノは口の中で呪文を唱えると身体をアリアの身長に合うよう傾ける。
彼に説明されなくても何の魔法なのか、アリアには分かっていた。
うん、と頷くとアリアはデルマーノの首に腕を回す。
「イッヒッヒッ………落ちるなよ?」
「勿論。だって貴方は落とさないよう抱いてくれるでしょ?」
「ぅ…………イヒッ!当然だ」
アリアの言葉に一瞬、呆けたデルマーノだが、目が覚めたように吹き出すと彼女を抱いて『飛翔』した。
……………トッ…
アリアを抱き、ワータナー諸島王国の夜空を駆けるデルマーノは街と樹海との中間地点辺りに作られた小さめの広場へと軽やかに降りたった。
「………ん〜……この方角にゃ、建物もねぇからな。あんのはこの広場だけだ」
「サグレス様が樹海へお入りになっていたら、今夜はもう……諦めるしかないわね」
「ああ。小規模っつっても樹海は樹海だ。魔力がなくなったり、はぐれでもしたら………遭難だ」
「う…………」
デルマーノの言葉にアリアは眉を細める。
そんな彼女にイヒッ、と笑うとデルマーノは歩き出した。