元隷属の大魔導師 12
「……男、二人だと何かと不便でな。まぁ、そこらの町娘よりかは優秀じゃろうて、必要があれば遠慮なく言いつけて下され…」
大したことでは無いと頬を掻くが、目の前の老人はただ者ではない。
「……ノーク殿、良ければ家名を伺ってもよろしいか?」
「む?ヘニングスじゃが…」
「「……はっ?」」
「じゃからヘニングス。ノーク・ヘニングス」
「…ヘニングスってあの?」
「六大魔導の『紫水晶』…」
「そうじゃよ……この歳でそんな阿保らしい二つ名なんぞ恥ずかしいだけじゃがな……」
彼はそう言うが、アンギュラス大陸最高の魔導師六人にのみ名乗ることの許された六大魔導の称号。宝石の名を二つ名とする至高の存在であった。
その中でも『紫水晶』と『黒真珠』の二人は数々の伝説が残っている。千年竜を倒した、一万の兵をたった一人で撃退した、魔神の復活を阻止した等、挙げたらきりがない。
幼い頃、聞かされた物語の主役が目の前にいる。その事実にアリアとエリーゼは気分の高揚が抑えられなかった。
その二人の耳に空気をまったく読まない失礼な台詞が聴こえた。
「…いいか、レベッカ。赤毛のデカいのがアリア、金髪の小せぇのがエリーゼだ」
「「………?」」
アリアとエリーゼは互いを見比べた。確かに髪の色は的確な表現だったが、身長は二人とも160cm前後であり言う程、差はない。
「…了解しました。アリア様、エリーゼ様…メイドゴーレムのレベッカと申します。どうぞお見知りおきを…」
ゴーレム、レベッカは慇懃な態度で挨拶をしたのだが、彼女?の視線は頭部にはない。少々、角度が下がっていた。
「………ぁ」
「…〜〜このっ奴隷上がりめ!何度っ、私をっ、愚弄すればぁっ!」
デルマーノが胸の大きさで自分達を紹介した事に気付いた二人。アリアは胸部を両手で抱き、頬を赤らめ、コンプレックスだったのであろうエリーゼは怒りのあまり声が切れ切れになる。
「ヒッヒッヒッ……痛っ」
予想通りの二人の反応にデルマーノは満足そうに笑い声をあげる。そんな彼をノークは杖の先で小突き、二人に謝罪すると塔の中に招き入れた。
「レベッカ、お茶を頼む。夕飯の用意もな。デルマーノ、お前はアルゴをちゃんと世話をしてから来るように…」
「へ〜い、へい…」
客船の看板ほどあるバルコニーで一人、デルマーノはアルゴの鞍や手綱を取っていく。
(ヒッヒッ……『あの』シュナイツ王家のお姫様か。面白いのが来たな…)
「なぁ、アルゴ?」
「グゥ……ルウゥッ!」
「あん?……姫じゃなくて騎士だぁ?……そっちも別の意味で面白ぇな…」
「……ゴォオッ!」
「イヒッ……確かに人助けたぁ、らしくねぇ事したが…まぁ、生きてりゃ色々あんだよ、人間って奴ぁ…」
「…クウゥ?」
「おほっ……生意気、言うようになったな。ヒッヒッ……おら、アルゴ。晩飯はてめぇで調達しろよ?」