元隷属の大魔導師 103
デルマーノは先程、最初に突っかかってきた男性を指さす。
「あのオッサン、つーかこの店の客達が俺達を本当の意味で憎んじゃいなかったからだ」
「本当の……意味?」
「例えば、俺達がワータナーの騎士や宮廷魔導師だったら速攻、喧嘩になっていたさ。それぐれぇ、この国の人間は王族連中を嫌ってる。だが俺達ゃ、シュナイツの人間で、貴族っちゃ、貴族なんだが……特別、嫌う理由はねぇ。だから、あのオッサンも難癖つけて、遠回しに追い出そうとしたんだ。直接、実力行使じゃなくてな。だからさ……」
「………だから?」
「だから……こっちから歩み寄る余地があった。酒に国は関係ないしな?イッヒッヒッ………」
「なるほど、ね。でも……もし、実力行使で来られたらどうするつもりだったの?」
「あん?ボコッてこの店を制圧するだけだろ?」
「…………」
さも、当然のように言うデルマーノにアリアは頬をヒクつかせた。
「………この店の人達。危なかったわね……」
「あん?」
「な、なんでもない。それより……何を頼もうかしら?」
ぼそり、とした呟きを追求されないよう、アリアはごまかし、壁のメニューを見る。
「………ワータナー名物といや……あれだ、あれ」
アリアは視線でデルマーノの指先を辿っていくと、店のメニューの中でも最も大きく張り出されている札を見つけた。
「子羊と果実の……岩塩包み?」
「ああ。以前、来た時に食ったが……旨かった」
「そうな………ぇっ?」
「あん?」
「あなた、ワータナーに来た事があったの?」
「ああ。言わなかった?」
「もうっ、聞いてないわ………はぁ、どうりでね……」
「……?」
それなら何度も訪れた事のある自分ですら知らない事をデルマーノが当然のように知っていたのも頷ける。
あの教会の司祭やウルスラなどともその時に会ったのだろうか。
アリアはローに注文を伝えるデルマーノを見ながら、そう考えていると気になることを思い出した。
「……ねぇ、デルマーノ?」
「なんだ?」
葡萄酒に口を付けていたデルマーノが呑む手を止め、アリアを見つめる。
その視線にドキッ、としながらもアリアは疑問を口にした。
「あなた、ウルスラの事を王女って……」
「ん?……ああ、そうだ。ウルは歴としたワータナー諸島王国の王女だぞ。んま、王位継承権は二十二位。末席だが……」
「………すると、彼女は……」
「ああ、前王の妾の子だ。年齢で言ゃ、二番目に高いらしいんでな。割とヤベェ立場だから王宮から追放されたんだ」
「そう、よね。どこの国も腹違いの王子、王女で政権争いが起こるって言うし……」
シュナイツのような女系国家を除けば、常に国々は正妻の子と妾の子とで後継者問題を抱えている。
若い頃からあらゆるモノを手に入れてきた国王が最後に行き着くのはやはり、美女との情事なのだろう。
「んで、あの教会にいた司祭――ジジイの古い知り合いなんだが――奴に預けられたって訳だ。妾の子が聖職者になる、ありふれてんがな」