元隷属の大魔導師 2
現在、ほとんどの貴族は御者に専用の魔導像(ゴーレム)を使用している。定期的に点検を行っておれば睡眠や休息を必要としないゴーレムは重宝される。
アリアはゴーレムの停止呪文を唱えると馬を馬車から切り離した。
「姫様っ!そのままっ……逃げ切って下さいっ!」
「っ………アリア!すまないっ…」
エリーゼが走り去るのを見届けるとアリアは馬の脚を止めた。
後方を見ると男達は弓を番えている。
アリアは音も無く剣を抜いた。騎士叙勲をした日、父から授かった両刃の片手剣。魔術を付与した刀身はうっすらと青く光っている。
味方は自分一人、敵は十二人の武装した男。どんな強力な魔導剣でもこの戦力差はとても埋める事はできないだろう。
アリアは直ぐそこまで迫った死を覚悟した。
(……劇ならこんな時、白馬に乗った王子様の一人や二人、現れるだろうけどなぁ……)
絶対の殺意を込めた十二本の矢が飛んできた。アリアはそれを見極めると、剣で空を薙ぐ。剣に付与された魔術により起こった突風がアリアを矢から守った。
男達の間に緊張が走る。それぞれが弓と矢を捨てると剣を抜き、構えた。
「さぁっ、来い!シュナイツ王国近衛騎士、アリア・アルマニエが相手しようっ!」
賊に名乗る必要は無いと分かってはいるが、そうする事でアリアは騎士として己を鼓舞した。
先頭を駆ける男と交錯する瞬間、アリアは一閃。右肩から胸に架けて深く斬り付けられた男は馬上から崩れる。
(残り、十一人…)
賊達は顔を見合わせると、何事か視線で会話した。頷いた四人の男達は一斉にこちらへ馬を駆る。アリアを突破し、エリーゼを追うつもりだろう。
「くぅっ…」
考える暇もなく、先頭の片刃の大刀を持つ男へと剣を振り下ろす。対する男はアリアの一撃を受け止め、横へ払おうとしたが、予想以上の威力に怯んだ。
その一瞬の空白を突き、アリアは男の腹部へ剣を走らせる。
「ぐぅ…あっ………」
その男は目を剥き、倒れたのだが、他の三人は既にアリアの横を通過してしまっていた。
「ぅっ!…」
(今から追っても追いつけない、よね……うっ、後は姫様が上手く撒ける事を祈る事しかできないなんて…)
エリーゼへの追っ手をこれ以上、増やしてはならないとアリアは残りの賊へ目を向ける。
自分の命が尽きるまで、騎士として自分ができる事をするしかない。
七人の男達はアリアの周りを取り囲むと、まずアリアの馬を狙いに攻撃をしてきた。もし馬を失ってしまえば、機動力を奪われる上に自分の頭よりも高い馬上からの攻撃に圧倒されるだろう。
必死で防御するアリアだが、こちらは片手剣が一本と付与された風の魔術のみ、周囲から襲いかかる七本の剣を完全に防ぐことも出来ず、次第にアリアとその馬は傷を負っていった。
そして…
ジュッッ!…
首元へ致命的な斬撃を受けた馬からアリアは振り落とされた。