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聖剣物語
官能リレー小説 - ファンタジー系

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聖剣物語 93

「いやなに、大した事ではない…実は、ロザリーの話し相手になってやってもらいたいのじゃ」
「義姉上(あねうえ)の…?」
「うむ…結婚後、幼い頃から住み慣れた王宮を出て、その上ワシの命令で愛するバンとまで引き離してしまった。父親であるワシが言うのもなんじゃが、あれは昔から人にはなかなか本心を明かさぬ娘でな、態度には出さぬが内心ではさぞ寂しい思いをしておるはずじゃ。それに貴族同士の社交場にもあまり顔を出しておらぬらしい。…かと言って無理に誘い出して良からぬ男が付いたりしてはバンに申し訳無い。解るかヘーデン?義弟であるそなたが適役なのじゃ。なに、毎日とは言わん。そなたが暇な時にでも屋敷に顔を出してくれれば良いのじゃ。どうじゃろうヘーデン?この親馬鹿の頼み、聞いてはもらえぬか?」
「お任せください国王陛下!ロザリー様は我が義姉上、喜んでお引き受けいたします」
ヘーデンは心なしか頬を紅潮させて快諾した。
実は彼もまた兄のバン同様、ロザリーに対して一種の憧れめいた感情を抱いていたのであった。
もっとも彼の場合、バンほど強い想いは無く、あくまでも“淡い恋心”の域を脱しないものであり、それもロザリーが兄嫁となった事で密かに封殺したのだったが…。

そして数日後、ヘーデンはバッカーズ侯爵邸を訪れた。
「お久しぶりです、お義姉さま!お元気そうで何よりです」
「私も嬉しいですよヘーデン。新婚早々夫が聖剣探索などという途方も無い任を与えられ、いつ帰るとも知れぬ旅に出てしまい退屈な毎日を過ごしていた所でしたから…」
ロザリー王女…いや、バッカーズ侯爵夫人は、にこやかな微笑みを浮かべてヘーデンを出迎えた。
地上に舞い降りた女神と見紛うかの如きその完璧な容姿、そしてその美貌に相応しい優美な立ち振る舞い…このような女(ひと)と共に過ごす時間を与えられただけでも身に余る幸運というものだ。だが目の前の女性は人妻…それも尊敬する兄の妻なのだ。ゆめゆめ理性を失ってはならないぞ…とヘーデンは己に言い聞かせる。
まあそんな事をしなくてもヘーデンがロザリーに手を出すなんて事は万に一つも無いだろう。
彼は分別という物をわきまえているし、女性に対しては奥手だ。
良い意味でも悪い意味でもバンとは正反対の性格なのだ。
そして幸か不幸か、彼は目の前に居る“女神”の本性を知る数少ない人間の一人となるのである。
それは二人に紅茶を持って来てくれたメイドが退室した直後の事だった。
「お義姉さま、この邸宅での暮らしにはもう慣れられましたか?」
「ハッ…お義姉さまぁ?さっすが真面目が取り柄の次男坊クン、あの馬鹿兄貴と違って礼儀だけは仕込まれてるようね…」
「……」
ヘーデンは硬直した。
彼は目の前の女神が吐いた言葉を現実の物として受け入れる事が出来なかった。
きっと聞き間違いに違い無い。
自分の耳の方がおかしいのだ。
そう言えば最近ちょっと疲れが溜まってたからなぁ…。
だが次のロザリーの言葉によって現実を再認識させられた。
「…あれ?固まっちゃった?ハァ…脳味噌の容量はあの馬鹿兄以下か…しっかし父様も本当に余計な気ぃ利かしてくれたわねぇ。せっかく汚らわしい男共に視姦される事の無い最高の環境を手に入れたってのに、よりにもよってあの馬鹿の弟を送り込んで来るなんて…まあ良いわ。あんた、私の半径1m以内に入って来たら大声出すからね。覚えときなさいよ?あとは30分くらいテキトーに話したフリしたら帰れ」
「……」
ヘーデンは眉間を押さえて黙り込んでしまった。
…噂には聞いた事があった。
ロザリー姫はネコを被っているだけで実は本心は性悪だと…。
噂だと思っていた。
彼女の美貌と人柄に嫉妬した者達が流した低俗でつまらない噂話だと…。
「いつまで黙りこくってんのよ!?フッ…失望した?悪いけど、これがあんたの“お義姉さま”の真の姿よ」
「あぁ…何て…何て残念な人だ…天は二物を与えぬと言うが…」
「ハァ!?残念ですってぇ!?それどういう意味よ!?」
「それは……口に出して言ってもよろしいのですか?」
「ええ!言ってみなさいよ!」
「では申し上げます。あなたは誰もが羨む容姿と地位をお持ちだ。なのにそれに相応しい人格という物が備わっていない…」
「ハッ…何を言い出すかと思えば月並みな説教?」
ロザリーは吐き捨てるように言った。
「お生憎様、心配してくれなくても私は表面上は“貞淑な姫”を演じてるわ…いや、今は侯爵夫人かしら…?」
「それが残念だと言うんです」
「ハァ!?」
「…おそらく、あなたは自分でも気付いていないんだ。あなたは普段は演技で今が本性だと考えているが、それはあなたの幻想に過ぎない。あなたの本性は紛れも無くあなた自身が“貞淑な姫”と評した普段のあなたなんですよ。…いや“貞淑な姫”なんてご大層なものですらない。常に他人の顔色を伺ってヘラヘラと愛想を振り撒いて、自分の意思なんて無く周囲の望む通りにしか振る舞う事が出来ないつまらない人間…それがあなたです。なまじ容姿と地位が良いだけ尚更始末が悪い。しかもそれを受け入れたくないために“実は隠された本性がある”という設定まで作り出してしまう痛々しさ…こんな人間を残念と言わずに他にどんな言葉で表現したら良いのでしょうか?」
「あ…あぁ…あぅ…あぅ…」

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