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聖剣物語
官能リレー小説 - ファンタジー系

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聖剣物語 79


バンと四人の女達は謁見の間へと向かった。

謁見の間には正装した神聖騎士団の騎士達が左右に整列しており、最奥の壁面には象牙で出来た至聖神ヴォル・ヴァドスの神像が鎮座し、その下に玉座があった。
そこに腰掛けている人物こそ当代の法王セルモノーV世であった。バンは思う。
(こいつが法王…つまり世界で一番偉い男か…なんかイメージと違うなぁ…)
そこに居たのは見た感じ40代半ばぐらいの痩せた小男だった。肌は不健康そうな土気色で瞳のみが不自然に爛々と輝いている。その視線はキョロキョロとしていて落ち着きが無く、正直言って威厳というか風格といった物がまるで感じられなかった。それに関しては玉座の周りに立っている枢機卿や高位の神官達の方が余程それらしい。当の法王は“寂れた田舎の神殿の神官長あたりがお似合い”といった風情だった。
内心そんな事を考えながらもバンは片膝を付いて頭を垂れ、お決まりの口上を述べる。
「法王猊下におかれましてはご機嫌麗しく、ご尊顔を拝し奉り恐悦に存じ上げます」
シスカがことごと心配していた無礼な言動も無い。バンも短期間ではあったが貴族暮らしで宮廷儀礼は一応身に付けていた。
法王は答える。
「うむ、そなたが聖剣の勇者バン・バッカーズか…」
男性にしてはキンキンとカン高い声だった。
「…して、聖剣の精霊はその四人の内の誰なのじゃ?」
「はあ…?」
バンは首を傾げ、聖剣に関しては一番詳しいメリサリムの方を見た。メリサリムは今まで忘れていた何かを思い出したかのように「あ…」と小さくつぶやく。皆が黙っていると神官の一人が言った。
「バッカーズ殿、法王猊下のご下問ですぞ、お答えを…」
「いやぁ…その“聖剣の精霊”って…」
一体何の事?…とバンが尋ね返そうとした瞬間。
「わ…私が聖剣の精霊です!」
メリサリムが立ち上がって叫んだ。
「おぉ…」「あのお方が…」「聖女エレナ様か…」「そう言われてみれば、何とも神々しくお美しくあらせられる…」
法王や神官達がざわめき始める。バンは訳が解らなかった。

短い謁見を終えた後、バン達は再び控えの間に戻って来た。
「ハァ…なんとかごまかせましたぁ…」
ホッと一息つくメリサリムにバンは尋ねる。
「なあメリサリム、“聖剣の精霊”って一体何なんだ?」
「その名の通り聖剣に宿る精霊の事です。大昔、邪神との戦いで命を落とした聖女の魂が剣に宿ったものです。剣の主である勇者の側には必ず付き従っている存在でして…」
「えぇぇ!!?お、お前そんな凄いモンだったのかぁ!?」
「違います!あの場を切り抜けるための演技ですよ!精霊がいないなんて事がバレたら、せっかく証明された勇者としての立場がまた疑われてしまいますからね…」
「…な〜んだ、でもさ、なら本物の精霊はどこにいるんだ?何で勇者である俺の前に出て来ない?」
「それは私にも解りません…」
「バン、あんた本当に聖剣の勇者なんでしょうねえ…?」
いぶかしげな表情で尋ねるアイラ。
「う〜ん…そう言われてみれば確証が無えなぁ…」
「しっかりしてください主殿!」
シスカが突っ込む。アレイダは笑って言った。
「アッハッハッ!自分を聖剣の勇者と勘違いしたまま法王にまで謁見した男なんて、逆に凄いじゃないかぁ〜」
「そうか!そうだよなぁ〜!アハハハハ…ッ!」
開き直って笑うバン。だがメリサリムは次第に表情が曇り始める。
「…でも、もし本当に勇者様が勇者様じゃなかったとしたら…私はとんでもない過ちを犯してしまった事に…」
「おいおいメリサリム…なにマジになってんだよぉ?だって俺、聖剣抜けたじゃねえか…なぁシスカ?」
「う〜む…聖剣が“間違って抜ける”という現象は起こり得るのであろうか…?」
シスカも真剣な顔で考えている。
「え…えぇ〜…」
アレイダは言った。
「なあバン、お前、聖剣の勇者って事でパラムじゃあ破格の待遇を受けてたんだろう…?」
「う…うん…」
うなずくバンの声はかなり不安げな響きを帯びていた。彼は聖剣の勇者という事で持て囃され、聖剣の勇者という事で爵位を得て一領主に封じられ、聖剣の勇者という事でロザリー王女と結婚したのだ…それが全て間違いだったとしたら…一体どうなるのか、想像も付かなかった。想像したくもなかった。
「「「……」」」
皆黙り込んでしまい、室内を何とも言えない微妙な雰囲気が支配し始めた…と思っていた矢先、扉が叩かれ、枢機卿のゲズマ老人が姿を見せた。
「失礼…おや、皆いかがいたした?揃いも揃って深刻そうな顔をして…」
「い…いやぁ、何でもねえよ…!」
「そうそう、もしかしたらバンは聖剣の勇者じゃないかも知れない…なんて話はしてないよ」
「ばか!アレイダ!余計な事を言うな!」
一行は慌ててその場を取り繕った。まさか“もしかしたらバンは聖剣の勇者じゃないかも知れない”という話をしていたなんて法王庁の枢機卿には口が裂けても言えない。
「ほっほっほ…まあ良い。ところでバッカーズ殿、法王様は貴殿に個人的に会って是非ともお話したい事があると仰せじゃ。ついて参られよ」
「個人的に…?悪いが今そういう気分じゃねえんだ…また今度にしてくれねえか?」
「こ、今度っていつですか勇者様…」
メリサリムが突っ込む。ゲズマは言った。
「今でなくてはならぬ。法王様はもうお部屋でお待ちじゃ」
「ハァ…仕方ねえ。おい、みんな行こう」
「いや、バッカーズ殿お一人で…との仰せじゃ」
「はあ…?」

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