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聖剣物語
官能リレー小説 - ファンタジー系

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聖剣物語 113


…それから数時間後、バンは目を覚ました。時刻は深夜だった。
「さ…酒が切れた…酒…酒…」
バンは震える手でベッドの傍らに置いてあったはずの酒瓶を探した。だがそこに酒瓶は無かった。
酒が無い。バンは突如として恐ろしい不安感に襲われた。
「おぉぉいっ!!!誰かぁ!!誰か酒を持って来てくれえぇ!!!」
バンは恐怖におののきながらベッドから這い出て叫んだ。
「メリサリムうぅぅ!!!シスカあぁ!!!アレイダぁ!!!アイラぁ!!?この際ロザリーでも良いからぁ!!誰でも良いぃ!!誰かあぁ!!」
パラム王国に居るはずの妻ロザリーの名まで叫ぶバン…彼は錯乱していた。
だが時刻は草木も眠る深夜、彼の悲痛な叫び声は虚しく城内に木霊するだけだ。
「…っ!?」
ふとバンは後ろに気配を感じて振り返る。そこに立っていたのは意外な人物だった。
「カ…カスター!!?」
それはバンが一番最初に殺した人間…セルモノー法王の部下、カスターだった。
「な…何故だ!?何故お前がここに居る!?お前は死んだハズじゃなかったのか!?」
『そうさ…俺はお前に殺されたんだよ、バン・バッカーズ…』
カスターはニタァ…と無気味な笑みを浮かべて言った。
『俺だけじゃあない…』
カスターが指差す方向に目をやったバンは凍り付いた。
「…っ!!?」
そこには何十という人間の顔があった。
「お…お前らは…っ!?」
暗闇に浮かぶ無数の顔は一斉に口を開いた。
『解らないのか…?』
『バン・バッカーズ…』
『俺達は…』
『皆…お前が…』
『お前が…』
『殺した…』
『殺された…』
『お前に…』
『殺した人間だよ…』
『人間だよ…』
何十…何百…何千という無気味な人間の顔がバンを取り囲み徐々に近付いて来た。
「うわあぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!!!」
バンは手許にあった聖剣を手に取ると思いっきり振り回した。
 ズバァッ
 グシャァッ
ある顔は真っ二つに斬り裂かれ、またある顔は振り回す剣の峰に叩き潰された。
バンは返り血も気に留めず一心不乱に剣を振り続けた。
「ハァ…ハァ…悪霊共め!死ね!死ねぇ!!死ねえぇ!!!」

…やがてバンは全ての死者達を斬り捨てた。
「どうだ!?この俺の力を見たかぁ!!?ワァーッハッハッハッハッハッハッハァッ!!!」
辺り一面の血の海の中で自らも血みどろになりながら狂ったように笑うバン…そこへ、別の声がした。
『バン・バッカーズ…』
「ひぃ…っ!?」
その声を聞いたバンはビクッと引きつる。忘れようはずも無い。あの男の声…。
「マ…マティウス…!!」
『バン・バッカーズ…哀れな男よ…』
マティウスは相変わらず無表情ながら、その目に軽蔑と同情の色を浮かべてバンを見つめて言った。
『…貴様は自分が何をしたのか解っていないのか…?』
「な…何だと!?そりゃあ一体どういう意味だ!?」
『貴様が斬った者達を良ぉ〜く見てみろ…』
マティウスはバンの肩越しに指差した。バンは恐る恐る後ろを振り返る。
「な…っ!!!?」
そこにはズタズタに斬り裂かれた四人の女の死体が血の海の中に転がっていた。
「メ…メリサリム!!!?シスカあぁ!!!アレイダあぁ!!!アイラあぁぁ!!!う…ぅ…うああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!?」
バンは絶叫した。

………

……



「……あ?」
「勇者様!!大丈夫ですか!?」
「しっかりしてください主殿!!」
バンは目を覚ました。夢だったのだ。
「…え?み…みんな…死んでない…」
「ハァ…当たり前だろう」
「きっと悪夢を見てたのね。酷く魘(うな)されてたわよ」
バンの周りをメリサリム、シスカ、アレイダ、アイラが取り囲んでいた。皆、心配そうに彼の顔を覗き込んでいる。
「み…みんなぁ…う…うぅぅ…」
「ゆ…勇者様?」
「主殿…」
女達は驚いた。バンは一番近くに居たメリサリムの胸に顔を埋(うず)め、肩を震わせてすすり泣き始めたのだ…。
「…大丈夫ですよ勇者様、私達は勇者様を残して死んだりしませんから…」
メリサリムはそんなバンを優しく包み込むように抱きしめたのだった。
バンはすすり泣きながら訴えた。
「助けてくれぇ…助けてくれぇ…暗闇なんだ…どこまでもどこまでも続く真っ暗闇なんだ…あの日とつぜん放り込まれちまった…とつぜん何も見えないようになっちまったんだ…」
「勇者様…もう大丈夫ですよ。私達が付いてますから…私達があなたを光の世界に連れ戻してあげますから…」
メリサリメは母が子をあやすような慈愛に満ちた表情でバンを慰めた。シスカも号泣しながら大声で言う。
「そうです主殿ぉ!!!主殿は一人ではありません!!我々が一緒です!!こんな時くらい我々を頼ってください!!我々は主殿のためなら…」
「シスカ…ちょっとうるさい…」
「ガーンッ!!!?」
「…まあ、時間はいくらでもあるんだ。心の病に必要なのは充分な休養さ。何ヶ月かかるか判らんが付き合ってやるよ。だから気長にやろうや…」
アレイダは頭の後ろで手を組んで呑気そうに言った。アイラも続ける。
「時が解決してくれる…ね。私もこんな弱ったターゲットを殺すのは暗殺者のポリシーに反するし…良いわ。半年でも一年でも待ってあげるわよ」
「み…みんな…!」

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